「トップ・ガン」「パイレーツ・オブ・カリビアン」など数多くのヒット作で知られるハリウッドを代表するプロデューサー、ジェリー・ブラッカイマー氏(76)が来日した。最新作は「ジェミニマン」(アン・リー監督、25日公開)。ウィル・スミス(51)ふんする伝説のスナイパーが、自分のクローンと対決する異色のSFだ。47年にわたり、斬新なエンタメ作品を生み出し続ける根っからの映画人に話を聞いた。

ジェリー・ブラッカイマー
ジェリー・ブラッカイマー

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-今回の作品は構想15年と聞いています。

「最初にこのアイデアを聞いたのは確かに15年前です。腕利きのスナイパーとそのクローンの戦い。主人公より30歳若いクローンの映像化を当時のテクノロジーでいろいろためしたんですが、鑑賞に耐えるものはできませんでした。テクノロジーが追いついて、ようやく実現したということです」

-先を見る目、技術の進歩を待つ忍耐力には感服します。撮影現場にもしばしば足を運ばれるそうですね。

「監督や演者さんにちゃんとサポートしてますよ、と。彼らに安心して仕事をして欲しいんですよ」

-でも、撮影現場では「怖い人」として知られています。ウィル・スミスさんも「ジェリーが来ると緊張して、知らず知らずのうちに顔色をうかがってしまう」と話していました。

「製作準備の段階では待つことはそれほど苦にならないのですが、現場で物事がうまく運んでいないと、ちょっとイラッとしてしまうかもしれませんね(笑い)。製作者としてはどうしてもより良いものを作りたいという気持ちがすべてに優先してしまうので、いろいろと言ったり、やったりしてしまうことは確かです。でも、ウィルとアン・リーは例外ですよ。あふれるような才能があって、自分たちで自己修正できる人たちですから。ウィルを緊張させたつもりはないんですけどね(笑い)」

ーそんな2人にとっても今回はチャレンジングな企画でしたね。

「20代のウィルを覚えている人は少なくないですからね。それをアンは毛穴まで映す最新の3Dで再現しようというわけだから。正直僕自身、目で見るまでは信じられなかった。アンのやったことはすごいことなんです。映画そのものを先に押し進めたんだから。でも、そこには莫大(ばくだい)なコストが必要でした。先行き不透明な中でお金を出したスカイダンスとパラマウントにはお礼を言わないといけませんね(笑い)」

「ジェミニマン」の1場面 (C)2019PARAMOUNTPICTURES.ALLRIGHTSRESERVED.
「ジェミニマン」の1場面 (C)2019PARAMOUNTPICTURES.ALLRIGHTSRESERVED.

-「映画」へのこだわり、愛着はスミスさんやリー監督以上にお持ちだと思います。大学では心理学を専攻。広告会社でCMを撮っていたあなたが、そもそも映画界に足を踏み入れたきっかけは何ですか。

「30秒のCMで商品をPRする仕事をしていたわけですが、いつもそこにはストーリーを考えていました。それがどんどん膨らんできていつの間にか2時間でストーリーを構築してみたいと思うようになったんですね。そもそもはカメラ好きの叔父の存在が大きいかもしれません。6歳のときに古いカメラをもらって、首からそのカメラを下げた当時の写真は今でも飾ってあります。大切な思い出です。改めて考えると、いろんなものをフレームの中に切り取る楽しさを知ったのはあの頃なんですね」

-スミスさん以外でも、トム・クルーズやジョニー・デップがまだ若い頃に「新境地」と言える役を提供し、ビッグ・ネームへのきっかけを作ってきました。

「誰にどんな役が出来るのか。どんな役をやったら面白いのか。それを発想したり、判断するにはとにかくいろんなものをたくさん見ること、読むこと、その積み重ねしかありません。経験の蓄積です。読書量、映画やテレビを見る量、可能な限りたくさんこなしています。だから、年を重ねることはこの仕事にとって良いことしかありません。若い頃に比べてだめになったのは膝の関節ぐらいですね(笑い)」

-半世紀近いキャリアは数え切れないヒット作で彩られていますが、苦境やピンチはあったのでしょうか。

「毎日ですよ(笑い)。信じられないかもしれませんが、映画の製作中は毎日恐怖でいっぱいです。否定的なことばかり頭に浮かぶんです。今回の作品は特にそうでした。今までにない試みをしているわけですから。アンは『出来る』といいましたが、正直に明かすと、僕自身は半信半疑だったんですよ」

-米フォーブス誌などの長者ランキングで常にエンタメ部門の上位に登場します。映画以外にはどんなことにお金を使うんですか。

「誤解されては困るんですけど、映画に私財は使いません。そういう意味では一銭も使っていない(笑い)。生活以外で一番の使い道は寄付です。チャリティー、チャリティー、またチャリティー(笑い)」

個性豊かな人たちを使いこなし、バラエティーに富んだ作品を生み出し続ける希代のプロデューサーは実直で心配性、そして努力の人だった。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)

ジェリー・ブラッカイマー
ジェリー・ブラッカイマー

◆ジェリー・ブラッカイマー 1943年9月21日、デトロイト生まれ。アリゾナ大で心理学を専攻。ニューヨークの広告代理店でCF監督。72年からロサンゼルスに移って映画製作に関わる。最初のヒット作は「フラッシュダンス」(83年)。以後「ビバリーヒルズ・コップ」「トップガン」「アルマゲドン」「パイレーツ・オブ・カリビアン」とヒットを連発。13年6月にはハリウッドのウオーク・オブ・フェームに殿堂入りした。