(C)2019松竹株式会社
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27日公開の「寅さん」50作目は、今や中学三年生の娘がいる満男(吉岡秀隆)のエピソードから始まる。そして、あのテーマ曲は桑田佳祐が歌う。渥美清さん(享年68)が亡くなった後に公開された「寅次郎ハイビスカスの花 特別編」から数えて22年。いきなり隔世を実感させ、あの「寅さん」の世界に浸りたかった身にはちょっと違和感がある。

だが、ストーリーが進行するにつれ、山田洋次監督が記念作に込めた思いが「男はつらいよ50 お帰り寅さん」のタイトルとともに染みてくる。第1作から数えれば半世紀。寅さんへの思いは世代ごとにさまざまだと思うが、まるで「ニュー・シネマパラダイス」のエンドロールのように過去作のハイライトを重ねた最終盤に胸が熱くなった。

満男はサラリーマンを辞め、念願の小説家デビューを果たしている。最新作の評判はまずまずで次回作の執筆を求められているが、本人はもうひとつ乗り気になれない。

亡くなった妻の七回忌で柴又の「くるまや」を訪れたあたりから、少しずつ「寅さん」の雰囲気が漂ってくる。

団子屋はカフェに生まれ変わったが、裏手の住居はそのままで、母さくら(倍賞千恵子)と父・博(前田吟)が暮らしている。考えてみれば、夫妻は今は亡きおいちゃん、おばちゃんを上回る年齢。見た目が若すぎる2人には老けメークを施したそうだ。一方で、過去作そのままで参道に登場する源公(佐藤蛾次郎)も居て、変わるもの変わらないものが同居する当たり前の時の流れがそこにある。

満男との間にいろいろあった泉(後藤久美子)と、マドンナ最多5回のリリーこと浅丘ルリ子の登場で、物語は一気に華やぎ、回り出す。

浅丘には貫禄があるが、艶っぽさもしっかり残している。すっかりマダム感をまとった後藤を見ながら、ゴクミと呼ばれた頃の現場取材のとがった様子を思い出す。

肝心の寅さんはもちろん帰ってこないのだが、随所で登場人物の思い出話に登場し、「死」をほのめかずセリフはない。文字通りみんなの心の中で生きている。

後半にかけて懐古的描写の頻度が増してくる。回想シーンでおいちゃん役が交代していても不思議に不自然さは感じない。何度も見て、いつの間にか「寅さん史」が体に染みこんでいるからだろう。

往年の寅さんの空気で心が温まった最後に流れるのが渥美清が歌うあのテーマ曲。違和感のあった冒頭の意図がすっと染みてきた。記念作は寅さんの歴史をさかのぼる旅なのだ。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)

「男はつらいよ50 おかえり寅さん」の1場面 (C)2019松竹株式会社
「男はつらいよ50 おかえり寅さん」の1場面 (C)2019松竹株式会社