「ぶあいそうな手紙」(7月公開)は、ウルグアイ、アルゼンチンと国境を接したブラジル南部の街ポルトアングレを舞台にしている。

ブラジルと言えば、日系人の多いサンパウロやカーニバルのリオデジャネイロを思い浮かべるが、ここはだいぶ趣を異にしている。70年代に隣国ウルグアイとアルゼンチンが軍政化し、これに伴う亡命者が多く移住。ポルトガル語とスペイン語、そしてそれぞれの文化が多重に混じり合う。

誰にも訪れる「老い」を題材に、随所に織り込まれたこの地ならではのエピソードがなかなか興味深い。

独居老人のエルネストはウルグアイからの亡命者。民主政権の時代には官邸写真家としてさっそうとした日々を送っていたが、亡命後は年々視力は衰え、おびただしい蔵書や配達される新聞も読めなくなっている。サンパウロに住む息子のラミロから同居を誘われているが、プライド高いエルネストは断り続けている。

ある日、彼の元に手紙が届く。隣人で、こちらはアルゼンチンからの亡命者であるハピエルは、差出人が女性だと大騒ぎし、「読んでやろう」と申し出る。「いや、けっこう」と突っぱねたエルネストだが、中身が気になって仕方がない。

曲折があって、ひょんなことで知り合った若い女性ビアが代読、返信の代筆をすることになる。南米の映画各賞の常連であるアナ・ルイーザ・アゼヴェード監督は、この曲折やひょんな部分をていねいに描き、なかなかありそうもない老人と若い女性の出会いと友情を自然ななりゆきに見せている。

差出人はウルグアイ時代に青春を共にした女性で、出会うはずの無かったエルネストとビアの協力関係が「奇跡」を起こすことになる。

ビアの手癖が少々悪かったり、その粗暴な交際相手が登場したりと、障害も少なくないのだが、決して恵まれているわけではなかった彼女がエルネストの経験と知恵に導かれ、やがては若者ならではの感覚や行動力が今度は彼を助けることになる。

モデルとなったのは、実際にポルトアングレに住んでいたイタリア人写真家のルイージ・デル・レ。この人が撮影スタッフのスチルカメラマンの父親だった縁で、監督がその晩年に興味を持ったという。身内ならではのエピソードが下敷きになっているわけで、生活の隅々に行き渡るきめ細かい描写にも得心がいく。

ビアに誘われて参加した路上の朗読会で、エルネストは秘めていたプロテスト精神を発露する。見どころのひとつだ。老いてもなお-の部分がこの作品では大きな比重を占めている。終盤の詳述は避けるが、気持ちの良い幕切れに元気をもらえる一編だ。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)