フランソワ・オゾン監督の作品にはいつも大がかりな仕掛けが施されていて、意表を突かれるところがある。新作「グレース・オブ・ゴッド 告発の時」(17日公開)は、その挑発的で人を惑わせるような作風を封印し、徹底した告発者の視点からカトリック教会の性的虐待事件をひもといている。

この3月、カトリック教会の元司祭に禁錮5年の判決が出た「プレナ神父事件」が題材である。80人以上の被害者が名乗りを上げた一大騒動。オゾン監督は勇気ある最初の告発者と、それに続く2人の象徴的な被害者にスポットを当て、封印したくなるような心の深い傷、その家族との微妙な関係に寄り添うように描いている。

妻子と平穏に暮らしていたアレクサンドルは、幼少期に自分を虐待したプレナ神父がいまだに子どもたちに聖書を教えていることを知り、告発を決意する。教会側はこの告発を真摯(しんし)に受け止めたように見えたが、プレナへの処分はいっこうに下らない。刑事告訴に踏み切ろうにも、ことが30年前だけに時効の壁があった。

警察からアレクサンドルの話を聞いたフランソワの場合は20年前の被害で、時効ギリギリのタイミングだったが、彼には事を公にしたがらない家族との葛藤があった。

一番若いエマニュエルは、かつて知能の高い利発な子だったが、虐待がトラウマとなり定職に就けずに生活はすさんでいる。

アレクサンドルの勇気は、世代も住む世界もバラバラだった3人を結びつけ、いつの間にかプレナ神父と彼の行動を黙認した教会への告発は一大運動に発展する。

アレクサンドル役にはオゾン作品3本目となるメルヴィル・プポー、フランソワ役にはクエンティン・タランティーノ監督の「イングロリアス・バスターズ」(09年)に出演した個性派ドゥニ・メノーシェ、エマニュエル役には17年のセザール賞男優賞のスワン・アルローと巧者ぞろい。被害者の心の奥を映し出す好演だ。

プレナ神父自身が性的虐待の被害者だったことや、アレクサンドルの妻がなぜ過去をさらす夫の告発をひるむことなく後押しできたのか、などオゾン監督は漏らすことなくていねいにつづる。

パブロ・ピカソは10代のころに驚くほど精緻なデッサンを残している。これまで変化球で幻惑してきたオゾン監督が繰り出した直球勝負のヒューマン・ドラマは、ぶれない筆致でピカソの写実画を見るようなインパクトがある。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)