映画「マヤの秘密」(18日公開)の背景にはナチスによるロマ民族の迫害がある。
50年代の後半、米国の典型的な郊外の街に暮らすマヤ(ノオミ・ラパス)は戦後、ルーマニアからやってきた移民だった。ロマの彼女はナチスの軍人に妹を殺され、自身も暴行された過去があり、毎晩のように悪夢に悩まされている。
「私は妹を見捨てて独り逃げたのか」
記憶の断片がつながらず、罪の意識も彼女の心をさいなんでいる。
そんなある日、ふと耳にした犬を呼ぶ指笛に慄然(りつぜん)とする。あの軍人の指笛に間違いない。その男トーマス(ジョエル・キナマン)は近所に越してきたばかりで、妻子とともに幸せそうに暮らしていた。
確信したマヤはトーマスを追跡。隙を突いて拉致し、自宅の地下室に監禁してしまう。悪夢の「真相」を知りたいマヤは否定する男に拷問もどきの尋問を続ける。医師の夫ルイス(クリス・メッシーナ)は最初は妻の行動をいさめようとするが、悪夢に苦しむ姿を目の当たりにしていることもあり、トーマスの正体を突き止めようと独自の調査を始める。
一方で、マヤはトーマスの妻レイチェル(エイミー・サイメッツ)に近づき、彼女も夫の過去に疑問を抱いていることを知って…。
半分ロマの血を引くノオミはこの企画を聞いて出演を即断。製作総指揮も引き受けて、イスラエル生まれのユヴァル・アドラーを監督に指名。「チャイルド44 森に消えた子どもたち」(15年)で共演した同郷スウェーデンの演技派キナマンにトーマス役をオファーしたという。
マヤの「確信」は妄想なのか、それとも現実か。適材を配したスタッフ、キャストの熱が伝わる人間ドラマ。アドラ-監督の計算の行き届いた演出は、二組の夫婦を巡るきりきりするサスペンスの行方を読ませない。
ノオミ自身も思いのたけをぶつけるように、執念を燃やす鬼の形相や、レイチェルへの同情に揺れる戸惑いの顔など、どれもが心を揺さぶる熱演だ。
幕切れは何ともいたたまれない。戦争の後遺症には終わりがないことを改めて考えさせられる。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)




