バイデン大統領誕生を目前に控え、全米は武装した人々による抗議行動が起こる可能性があるとして厳戒態勢となっています。

「選挙結果は不正」「票は盗まれた」と信じて疑わないトランプ支持者たちの間では、バイデン次期大統領の就任式に合わせて武装抗議に参加するよう、極右派が利用するSNSを中心に呼びかけが広がっていると言われていますが、6日に首都ワシントンDCで起きた連邦議会議事堂襲撃事件を発端に、世界中でトランプ支持者たちが信じる「QAnon(Qアノン)」という陰謀論が広く伝えられています。そしてその陰謀論には、少なからずハリウッドスターも関係しています。

大統領就任式を前に厳重な警備が敷かれるワシントン(ロイター)
大統領就任式を前に厳重な警備が敷かれるワシントン(ロイター)

まずはQアノンとはどのような陰謀論なのか簡単にいうと、巨悪に支配された現代社会を相手にトランプ大統領が密かに闘っているというものです。具体例をあげると、民主党の議員やハリウッドスター、大手企業のエリートらは小児愛の悪魔崇拝者で、児童買春組織を運営する秘密結社だということ。さらにその秘密結社がディープ・ステート(闇の政府)として影で政府やメディアを操っているという主張です。

支持者たちは新型コロナウイルスもでっち上げの嘘と信じて疑わず、トランプ大統領が悪魔崇拝者から自分たちを守るために闘っていると思っています。トランプ支持者たちの多くがこのQアノンの熱狂的支持者だと言われていますが、6日の議事堂襲撃事件でもQアノンのメンバーだと分かる印をつけた人がたくさん現場にいたことが映像から確認されています。

ではQアノンがどのように生まれたのかというと、2017年10月に「Q」を名乗る人物が匿名掲示板に投稿した書き込みが始まりだと言われています。「Qが承認した米政府の機密レベル」と主張する内容で、2016年の大統領選でトランプ大統領と争った民主党のヒラリー・クリントン氏が国外逃亡に備えて複数の国と身柄引き渡し協定が結ばれている(そのような事実はない)というものでした。

それ以降、「オバマ前大統領やクリントン氏ら民主党の大物政治家は人身売買を行っている」「秘密結社が現代社会を牛耳っており、トランプ大統領はその不正と闘うために大統領に立候補した」などという主張が拡散され、その過激で突拍子もない内容を信じる人たちが多く出てきたのです。それ以前の2016年の米大統領選でもクリントン氏陣営の選挙責任者だった人物がワシントンDCのピザ店を売春組織の拠点にしているというフェイクニュースが流れ、それを発端にこのピザ店に銃を持った男が押し入って発砲した「ピザゲート」と呼ばれる事件も起きています。

彼らはトム・ハンクスやスティーブン・スピルバーグ、オプラ・ウィンフリーやエレン・デジェネレスらハリウッドの大物も秘密結社のメンバーで、児童買春組織を運営していると根拠のない主張をしており、故ジョン・F・ケネディ元大統領の息子で、1999年に飛行機事故で亡くなったジョン・F・ケネディ・Jr氏が実は生きていて、トランプ大統領の熱狂的支持者だという話もまことしやかに信じられています。ケネディ・Jr氏を巡ってはトランプ大統領の集会に密かに姿を見せていたという話や、20年の選挙でトランプ大統領の副大統領になるといった主張まで信じられていました。真顔でハンクスが小児愛者だとかケネディ・Jrの死亡は陰謀論で生存は確認されていると真剣に話す人もいるので、この話はかなり多くの人に浸透しているようです。

襲撃事件は周到に計画されたものである可能性が指摘されていますが、陰謀論を信じる人たちの一部は今も、大統領就任式で何かとてつもないことが起こってトランプ大統領が再び政権を握ることになると確信していると言われています。

その就任式では選挙戦でバイデン氏を支持してきたことで悪魔崇拝者との陰謀論が出ているレディー・ガガが国歌を歌い、同じくバイデン氏支持を表明していたジェニファー・ロペスがパフォーマンスを行うことが発表されています。また、同日夜に主要メディアで放送される就任記念特別番組はハンクスが司会を担当し、ジョン・ボン・ジョヴィやジャスティン・ティンバーレイク、ブルース・スプリングスティーンら民主党支持者たちが出演してパフォーマンスを行うことも決まっています。

20日に何が起きるのか誰にもわかりませんが、多くのハリウッドセレブたちが平和的な政権移行を願っていることだけは間違いありません。【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)