7月から舞台が続々と再開している。8月1日には歌舞伎公演も156日ぶりに「八月花形歌舞伎」が始まり、帝国劇場でもコンサート形式ながら「ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』イン コンサート」で再開した。いずれも新型コロナウイルスの感染予防のガイドラインに沿って、劇場に入る時は検温チェックを受け、手指にはアルコール消毒液を吹き掛けられる。座席も前後左右は空けられ、小劇場でも密にならないように、イスの間隔を空けて、前列に座る観客にはフェースガードが配られたところもあった。

舞台上でも、出演者がフェースガードをつけたり、歌舞伎では長唄、鳴物の奏者、後見は黒い特製布マスクを着用した。「源氏店」では与三郎とお富が本来なら抱き合う場面も回避し、ひもを使いながら抱き合えないもどかしさに笑いを誘う演出もあった。東京芸術劇場の「赤鬼」ではステージを客席が四方を囲む形で、透明のビニールシートで仕切られていた。

再開後、20本以上の舞台を見てきたけれど、気になったことがあった。それは高齢者の姿が少ないことだった。特に歌舞伎座では顕著だった。156日ぶりの再開で初日こそほぼ満席だったけれど、以降の日程で見に行った時は空席が目立った。それは歌舞伎のコアなファンである高齢者が観劇に来られない事情がある。新型コロナウイルスは若者と比べて高齢者が重症化する傾向があるから、本人が観劇を断念したり、家族がこの時期の観劇をやめるように言ったりするケースも多いのだろう。

そして、前後左右が空いた状態での観劇に慣れつつある自分に、ちょっと危惧を抱くことがある。前に人がいないと舞台が見やすく、隣にもいないとなると、ストレスも少ない。だから、ゆったりとリラックスして見られるのだが、それは販売する客席を半分以下に減らしている結果であり、そのため製作側は収入を大幅に減らしている。

11年3月の東日本大震災後、演劇が再開した時、夜公演の観客が激減した。当時は計画停電などがあり、電車が間引き運転されたり、終電が早まったりと、帰りの時間を気にする人が増えたせいでもあった。その後も夜公演を避ける傾向が続き、今では中・高齢者の観客が多い公演を中心に、夜公演が少なくなり、終演時間も早めたりして、「観劇スタイル」が大きく変わっている。

今回のコロナ禍でも、収束後に観客が戻ってくるのだろうか。また、ガイドラインによる観劇スタイルに慣れた人々が、以前のような密状態での観劇になじむことができるのだろうか。コロナ禍が「観劇スタイル」に新たな変化を及ぼすことがあるかもしれない。【林尚之】

(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)