タカラジェンヌを養成する宝塚音楽学校では、文化祭は毎年、秋ではなく、2月に行われる。予科、本科と2年にわたり歌、日舞に洋舞、演劇の技術から人格形成までを学んできた生徒が、その集大成を発表する場として、「卒業公演」の位置づけで開催されるため、3月の卒業前の2月中旬開催になっている。

 客席には生徒の両親、親族に加えて、いち早く未来のスターを発掘しようと熱心なファンも多く駆けつける。端的に言えば“青田買い”ファンも多く集結する。生徒は文化祭を終えると、3月の卒業式を経て宝塚歌劇団へ入団。その後の初舞台に備えるが、文化祭の場所は、スターが公演を行う宝塚バウホール。いわば、将来に備えた“予行演習”的な側面もある。

 今年は104期生の文化祭だった。1期下、昨春入学した105期生には、松岡修造氏の長女、松岡恵さんがおり、話題になったが、その1年先輩のタカラジェンヌの卵たち。総体的にレベルが高かった。

卒業公演となる文化祭で、パフォーマンスを披露した星組トップ娘役綺咲愛里の妹、三徳美沙子さん(左から2人目)ら宝塚音楽学校104期生(撮影・村上久美子)
卒業公演となる文化祭で、パフォーマンスを披露した星組トップ娘役綺咲愛里の妹、三徳美沙子さん(左から2人目)ら宝塚音楽学校104期生(撮影・村上久美子)

 文化祭は「歌」「演劇」「ダンス」の3部構成。まず、1部の「歌」。まだ成長途上の生徒ばかりゆえ、毎年必ず「え?」と思う生徒がいる。劇団へ入団後もレッスンは続くので、当たり前なのだが、この先、大丈夫か-と不安になる生徒も確かにいる。だが、今年はそういった生徒は見当たらなかった。

 クラシック・ボーカル部門では、男役志望の越智愛梨さん(兵庫県西宮市出身)、娘役志望の村上すず子さん(兵庫県尼崎市出身)が、それぞれソロで、オペラ楽曲を披露したが、圧巻の声量、まだ学校生とは思えない表現力だった。

 とりわけ、越智さん。当たり前だが、男役も女性なので、どうしても、10代の学校時代は女性のキーで歌う娘役の方が有利になる。なのに、強く響く“男役歌唱”をこなしていた。

表現力豊かにソロを歌い上げた越智愛梨さん(撮影・村上久美子)
表現力豊かにソロを歌い上げた越智愛梨さん(撮影・村上久美子)
ソロ歌唱を披露した104期生の村上すず子さん(撮影・村上久美子)
ソロ歌唱を披露した104期生の村上すず子さん(撮影・村上久美子)

 2部の「演劇」。実はこれが、最も、現役のタカラジェンヌとの力量差を痛感するジャンル。セリフの棒読み、表現力の乏しさゆえ、情感が伝わらなかったりするのだが、おおむね達者だった。皇位継承権を剥奪され、幽閉された皇太子の住まいに忍び込んだ泥棒を中心にした物語だったが、泥棒を演じた石田日向子さん(東京都三鷹市)の巧者ぶりが際だって見えた。

 毎年、1学年は、20倍以上の競争率を勝ち抜いて入学した40人が基本。この中からだいたい、1~2人は未来のトップスターが出る。多ければ4~5人のケースもあり、必ず1学年から1人、トップに就くと決まっているわけでもない。入団後、いかに芸を磨き、人格を形成できるか。

 4月27日開幕の星組公演「ANOTHER WORLD」「Killer Rouge」で初舞台を踏む予定の今年の新人、104期生の争いは、これから始まる。【村上久美子】(ニッカンスポーツ・コム/コラム「ナニワのベテラン走る~ミナミヘキタヘ」)

宝塚音楽学校の卒業公演となる「文化祭」の恋会稽古を行った本科生104期生(撮影・村上久美子)
宝塚音楽学校の卒業公演となる「文化祭」の恋会稽古を行った本科生104期生(撮影・村上久美子)