今年5月に就任丸5年を迎える花組トップ明日海(あすみ)りおが、兵庫・宝塚大劇場で、希代のプレーボーイを好演している。1トップ娘役仙名彩世(せんな・あやせ)演じる修道院から出たばかりの娘との情熱的な恋でも魅了している。仙名は今作で退団する。宝塚公演は3月11日まで。東京宝塚劇場は3月29日~4月28日。

「お稽古中にも、ふっとした瞬間に、今幸せだなって思って、ちょっとジーンとくる時はありました」

今作で退団する仙名は一昨年2月、娘役としては異例の遅咲き9年目でトップ娘役に就任。明日海の3代目相手役に迎えられた。

「明日海さんには日々、たくさんアドバイス、エネルギーをいただきました」

最後の役柄は、修道院から行儀見習いを終え、出てきたヒロイン。プレーボーイのカサノヴァを魅了する。

「(舞台で)娘役さんたち大勢に囲まれ、1人立っている姿が、なんて似合うんだろうと…。でも、明日海さんなら納得(笑い)。そんな方の相手役をさせていただけたことが、どれほどありがたいことか。卒業するその瞬間も、そう思っていると思います」

新しい人生へ踏み出すヒロインの設定と、劇団に別れを告げる自らがリンク。楽曲はドーヴ・アチア氏の書き下ろしで、大作だ。

「曲がすばらしく、ボリュームがある。ちゃんと自分たちのものにできたら、みんなが成長できる機会になる。私自身もすてきな曲をいただきましたし、しっかりと表現していきたい」

役作りの過程で、宝塚音楽学校の受験時を思った。

「今から始まる。希望に満ちた歌があって、あの頃も何を学び、何ができるのか、何が待っているのかって、不安よりも楽しみの方が大きかった。あの思いを芝居に生かせたら」

明日海との掛け合いは、ラップの楽曲にのり、セリフをかわし、歌う場面もある。「舞台上でのラップは初めて。私にとって、かなり新しい感じ」。まだまだ新たな挑戦の日々だ。

「自分が見てきたすてきなところ、物を取り入れ、模索しながらきた。でもまだ、自分の中で満タンにはなっていない。卒業の瞬間まで取りこみ続けたい」

首席で入団。技量は歌、ダンス、芝居と3拍子そろい申し分ない。娘役として「身なりも心も、つねに美しくある」ことに努めてきた。近づく有終の日。本拠地に別れを告げる3月11日は、故郷の仙台が東日本大震災に見舞われた日だ。「毎年、3月11日に舞台に立たせていただき、特別な思いはあります」。万感の思いを胸にゴールへ向かう。

◆祝祭喜歌劇「CASANOVA」(作・演出=生田大和、作曲=ドーヴ・アチア) 18世紀ベネチアに生まれた希代のプレーボーイ、ジャコモ・カサノヴァ。詩人や作家、聖職者、詐欺師、錬金術師、さらにはスパイ…。多様な“顔”を持つ男を描くオリジナル・ストーリー。映画などでも取り上げられ、数奇な運命をたどった男の半生を描く。楽曲は「太陽王」「1789」などを手がけたドーヴ・アチア氏が書き下ろした。女性との浮名から、風紀を乱した罪で投獄されたカサノヴァは、周到な計画を立てて脱獄。カーニバルにまぎれ逃走劇は進む。その最中、修道院から出たベネチア総督のめいベアトリーチェ(仙名)と出会う。

☆仙名彩世(せんな・あやせ)12月3日、宮城県生まれ。08年3月入団。花組配属。新人公演のヒロイン経験はないが、専科スター轟悠主演の16年「For the people」でヒロインを務めるなど、技量に優れ、一昨年2月に蘭乃はな、花乃まりあに続く、明日海の3代目相手役として、トップ娘役に。身長162センチ。愛称「ゆき」。