前花組トップ明日海りおが、2月1日からNHK連続テレビ小説「おちょやん」(月~土曜午前8時)に、ヒロインへ影響を与える新派出身女優として出演する。昨年10月30日から収録に入り、一昨年11月の退団後、初のドラマ現場。放送では先になったフジ系ドラマ「青のSP」、舞台「ポーの一族」が今月上旬に大阪でスタートするなど、女優として再出発した明日海に今の思いを聞いた。

新派出身の女優役で朝ドラに初出演する明日海りお(NHK提供)
新派出身の女優役で朝ドラに初出演する明日海りお(NHK提供)

退団後、最初のドラマ収録の現場が朝ドラ。昨年10月30日から参加した。

明日海 声量を抑えなきゃ、男役ではないからしおらしく…とか、とても緊張していたんですけど、リハーサルから演者さんの熱量がすごくて。お尻をたたかれたように刺激的。想像していた映像の世界よりも、ずっとエネルギッシュ。

「おちょやん」ヒロインは杉咲花。喜劇女優・浪花千栄子がモデル。明日海は新派出身で、東京で主役を張っていた女優高峰ルリ子を演じる。喜劇一座「鶴亀家庭劇」に加わり、最初はプライドが邪魔するも、環境の変化に戸惑いつつ進む。自身の境遇にも通じる。

明日海 そうです、ありますね(笑い)。環境が変わって、チャレンジという点でも、場面でも。稽古や芝居の場面は、リアリティーをもって演じられる。劇団員として、舞台にかけるエネルギーも必要で。

退団後、自らに驚いた。

明日海 どんより、希望を失って…みたいになってしまうと思いきや(笑い)。変わらず体を鍛え、歌を練習して。衰えさせちゃいけない。(私服は)全然(大きく変わらない)。スカートも増えましたが、男役時代の服も残っています。

退団後、コロナ禍で歩を止められた。

明日海 予定が変更に…最初は焦って、不安で。ちょっとやそっとで落ち込む年ではないと思っていたのに(笑い)。今まで大人数を率いて、自分がどっしり構えていないと-との意識が自然と働いて、ゆったりいられたんだなって。

昨春の緊急事態宣言で、気持ちが切り替わった。

明日海 「時間を楽しむ」「有意義に過ごす」「意味のあるものにする」って、やっていくうちに復活! 料理も、洗い物を少なくし手際良く。あの具材と…頭の中で組み立てられ、お料理計画が上手に。一時期、ひき肉系が多かった。鳥つみれ、ハンバーグでも調合を変えて。どんな歯ごたえが好きか、ハーブやスパイスを入れてみたり。

昨年は変化を実感した。

明日海 ステージも、ファンの方との交流も減り、女性に「キャー」と言われることも減ってしまい、寂しいのは寂しい。でも、メークも雑誌を見て、自分に合うもの、なじむものを丁寧に探すことができた。

古巣も延期、休止に見舞われた。昨年初め、宝塚大劇場で同期の雪組トップ望海風斗主演作を観劇した。

明日海 望海の後に(後任柚香光がトップ就任の)花組の別箱(公演)を見てパタリと行けなくなった。

CS放送などでも、仲間の舞台を見たという。

明日海 状況も変わるだろう、連絡しない方がいい? と思っていたんですけど、時間ができると…。望海も柚香も、ちょくちょく今でもやりとりを。たわいない話が多いですね。

絆、縁は永遠。宝塚での経験が朝ドラでも生きる。

明日海 お着物、日舞の場面では緊張しません。着崩れない方法、長時間でも疲れにくいカツラのつけ方…。男性がどう見せたいのか分かるので、女の人はこの方が-とか。両方を客観的に考えながらできる。

加えて、衣装の着こなしでも意外に役立つことが。

明日海 けっこう俳優さんに「どうすればカッコイイ」って、聞かれることが多くて。(演出の)先生からも。足の出し方、歩き方、スーツのバランス、この時代の帽子のかぶり方…今まで勉強してきたことが。

将来の夢は「難役」。

明日海 難しい役に出合いたい。解釈とか。金色の砂漠とか、いっぱいありました。演じることに、自分を燃やし尽くすような!

花組トップ時代に主演した「金色の砂漠」は、宝塚では異例、奴隷役の主人公だった。21年は「動き始める」年にしたいという。

明日海 バレエ、トレーニング、ピラティス、ジャイロトニックも。できていれば、体も心も調子いい。

環境順応力も高める。

明日海 宝塚時代は、ある程度先まで読めた。今はひとつひとつの仕事に気を引き締めて。昔、思っていたような「次はないかも」「こうなりたい」という意識も大事にしていきたい。

あこがれの女優は不変。

明日海 趣味だけで言えば、深津絵里さんが好き! 役ごとに世界観にとけ込んでいて、ああいう女性像が好きなのかな。ちょっとミステリアス。おとなしそうだけど、おちゃめそう。

深津は次々作「カムカムエヴリバディ」ヒロイン3人のうち、1人に決まった。大阪局制作の次作。明日海は「出たい!」と切望していた。【村上久美子】

朝ドラ「おちょやん」出演の初登場場面(NHK提供)
朝ドラ「おちょやん」出演の初登場場面(NHK提供)

◆おちょやん 茶屋や料亭などで働く「小さい女中さん」を意味する。103作目の朝ドラは、上方の代表的喜劇女優、浪花千栄子をモデルに描く。大正から昭和の大阪が舞台。貧しい家庭に生まれたヒロイン竹井千代(杉咲花)は女優を志し、後に、大阪で誕生した「鶴亀家庭劇」に参加。喜劇界のプリンス天海一平(成田凌)と結婚し、喜劇女優として道を歩む。

「鶴亀家庭劇」は、千代にとって家族同様の存在。明日海は、新派出身の女優高峰ルリ子にふんし、座員に加わる。最初は喜劇を見下していたが、徐々に女優魂に火が付いていく。2月1日から登場。

☆明日海りお(あすみ・りお)1985年(昭60)6月26日、静岡生まれ。03年宝塚歌劇団に入団。12年月組準トップ、異例の本拠地作主演役代わり。花組へ移り、14年5月同トップ。15年台湾公演主演。19年6月、4人目相手役に華優希を迎え劇団初の横浜アリーナ公演。同11月退団。昨年9月「ムーラン」で声優初挑戦。今年、宝塚時代の代表作のひとつ「ポーの一族」主演。フジ系ドラマ「青のSP-学校内警察・嶋田隆平-」(火曜午後9時)にも出演。身長169センチ。

新派出身の女優役で朝ドラに初出演する明日海りお(NHK提供)
新派出身の女優役で朝ドラに初出演する明日海りお(NHK提供)
新派出身の女優役で朝ドラに初出演する明日海りお(NHK提供)
新派出身の女優役で朝ドラに初出演する明日海りお(NHK提供)

<劇評:ポーの一族>

少年の姿で生き続けるバンパネラを描き、萩尾望都氏の名作漫画をもとにした「ミュージカル・ゴシック ポーの一族」が、大阪・梅田芸術劇場公演を終えた。主演は花組トップ時代、代表作のひとつになった明日海りお。脚本・演出も小池修一郎氏。相手役に千葉雄大を迎え再演となった。

明日海演じるエドガーに息づく「極上の美 永遠の命」。明日海が表現する「性別を超越した人ではない美しさ、妖しさ」は健在だった。明日海は、相手が男優となり「体格、声量、力加減が全然違う。自分のパワーが、2倍3倍必要」と言い「思い入れのある舞台をいったん壊し、また積み上げた」とも吐露。おなじみのナンバー、聞きなじみのある明日海の歌声にも、どこか優しさが増した。

東京国際フォーラムで2月3~17日、愛知・御園座で2月23~28日の予定。【演劇担当・村上久美子】

フジ系ドラマに続き、朝ドラにも初出演する明日海りお
フジ系ドラマに続き、朝ドラにも初出演する明日海りお