河瀬直美監督(47)が10日、東京・ラフォーレミュージアム原宿で、米国アカデミー賞公認の国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル&アジア」のイベントとして「マスタークラス 河瀬直美~足元を掘り下げれば世界につながる~」を開いた。

 今回のマスタークラスは、「ショートショート フィルムフェスティバル&アジア」と、河瀬監督がエグゼクティブディレクターを務め、今年で4回目を迎える「なら国際映画祭」(9月17~22日、奈良市で開催)が共同で立ち上げる、日本人映像作家 強化養成プロジェクトの一環として行われた。

 河瀬監督は、大阪写真専門学校(現ビジュアルアーツ専門学校)映画科時代の28年前に大阪・梅田を撮影したという、初めての映像作品(3分)や、95年の山形国際ドキュメンタリー映画祭などで高く評価された自主映画「につつまれて」「かたつもり」の一部を上映しつつ映画、映像への思いを語った。

 「(初映像作品の)タイトルは、専門学校の課題『私が強く興味を持ったものを大きくフィックスで撮る』にしました。フィックスとは、カメラを動かさないこと。望遠もズームも使わないので(被写体に)近づかないといけない。対象であるものを真っすぐ見詰める…それが人やものに対する根本となる関わり方であり、私にとっての映像表現の原点」 「私にとって、もう2度と出会うことのないものに、もう1度時間が経過して出会えた。私にとって、映画はタイムマシン、時間を行き来できるものに出会えた」

 「映画、小説、絵画…さまざまなところにおいて、主観と客観を持っている人は強いし、観客の共感を得られると思います」

 今回のマスタークラスをへて、短編映画を監督、もしくはプロデュースした経験のある20歳以上の若干名を一般公募し、なら国際映画祭期間中の9月16、17日に奈良市内で合宿を行う。そこで、さらなる問題提起、問題解決の具体的なアクションプラン、そしてそのロードマップ考えていくディスカッションを実施していくという。

 既に、なら国際映画祭と、河瀬監督とも縁が深い世界3大映画祭の1つ・カンヌ映画祭の学生作品を対象としたシネフォンダシオン部門がパートナーシップを結ぶことが決まっている。同監督が、今年のカンヌ映画祭で短編部門と同部門の審査委員長を務めたことから実現。なら国際映画祭の学生部門「NARA-wave」に選出された作品を、カンヌ映画祭シネフォンダシオン部門のディレクターへ直接届け、かつシネフォンダシオン部門で上映された作品も、なら国際映画祭で上映する。

 河瀬監督は、今年のカンヌ映画祭で、ジル・ジャコブ名誉会長が語った印象的な言葉として「君たちは1つの部屋と1つの窓を持っていればいい」という一言を紹介した。そして「まなざしを真っすぐ向けるところに、物語は起きる。自分の部屋、窓からの風景で十分、作れるということ」と熱っぽく語った。そして「日本の若手も、ショートフィルムから世界に行ける。自分の映画とともにライフワークにしたい」と、今回のマスタークラスと合宿を手始めとした「ショートショート フィルムフェスティバル&アジア」との共同による、若手育成に強い意欲を見せた。

 また「ショートショート フィルムフェスティバル&アジア」代表の俳優別所哲也を主人公に、河瀬監督が製作し、昨年の釜山映画祭で上映された短編映画「嘘-LIES-」が、日本で初上映された。劇中には、別所が通訳役の尾崎愛とシャワーを浴びるシーンが登場する。河瀬監督は「別所さんに全裸になってシャワーを浴びていただいた。裏表がなく、あっけらかんと(衣服を)脱ぎ捨てる感じ。ほれそうになった」と言い、苦笑した。