世界3大映画祭の1つ、第76回カンヌ映画祭の授賞式が27日(日本時間28日)フランスで行われ、「PERFECT DAYS」(ヴィム・ヴェンダース監督、日本公開未定)に主演の役所広司(67)が男優賞を受賞した。役所の同賞受賞は初で、日本人俳優としても2004年(平16)に「誰も知らない」(是枝裕和監督)で、当時最年少の14歳で受賞した柳楽優弥(33)以来、19年ぶり2人目。役所の世界3大映画祭での主演男優賞受賞は初めて。
役所は授賞式後、日本のメディアの取材に応じた。その中で「やっと、柳楽君に追いついたかなと」と、笑いながら口にして、柳楽以来19年ぶりとなる日本人俳優としての受賞を喜んだ。そして「柳楽君も素晴らしい俳優になったし…男優賞、いただきましたけど、皆さん、言いますけど、この賞に恥じないように頑張らなきゃいけないなと、改めて思いますね」と俳優業にまい進する意気込みを、改めて示した。
カンヌ映画祭男優賞受賞で、海外の仕事が増えるのではないか? との質問も出た。役所は「日本人を演じられるなら、どんな国の作品でも自分の表現が役に立つ作品があれば参加したいですね」と意欲を示した。一方で「基本的には、自分たちの国の映画で世界の人に楽しんでいただけるのが、一番の早道かなと思っております」と、日本映画へのこだわり、愛を明確に示した。
役所にとって、カンヌ映画祭への参加は、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督(59=メキシコ)が監督賞を受賞した「バベル」の出演者として参加した06年以来、17年ぶりだった。97年には主演映画「うなぎ」が最高賞パルムドールを受賞し、今村昌平監督の代わりに賞を受け取った。当時を振り返り「『うなぎ』の時は、本当に興奮していて、まさかパルムドールとは、と…。監督の代わりにもらったんですけど、欧米の方はハグしてキスするんですけど。僕は(プレゼンターのフランスの女優)カトリーヌ・ドヌーブさんに、どうするべきか? 俺もするべきかギリギリまで悩みましたけど、日本人らしく、おじぎしました」と言い、笑った。
「うなぎ」から26年。今度は、男優賞を自らの手で受け取った。「今回は、監督も近くにいましたし、スタッフと一緒に受賞を分かち合えました。緊張したというか、ずいぶん待たされましたね。ああ、カンヌ映画賞っていうのは、こういうものなのかなと思って。監督も、ジリジリしていました」と、受賞までの心境を振り返った。
何の賞を受賞するか、分からなかった中「ひょっとしたら、ありえるかな…」という思いもあったという。「監督が、しょっちゅう、『大丈夫』みたいなことを言っているんですけど…。今回、たくさん取材して、フランスのメディアも、日本の皆さんもそうですけど、とても良かったと褒められて。乗せられていたので、そう思っちゃいけない、いけないと思っている自分と…ひょっとしたら、あるかもしれないと、思ったかもしれませんね」と、前評判の良さに背中を押されていたと語った。受賞の瞬間の思いを聞かれると「今回、男優賞がすごい早くて。いろいろな人の名前を言っていて、ダメなのかなと思ったら、最終的に審査員が『コウジ・ヤクショ』と言った時…何だ、もらったのかとビックリした」と振り返った。
「Perfect Days」は、1987年(昭62)に「ベルリン・天使の詩」でカンヌ映画祭監督賞を受賞した巨匠・ドイツのヴィム・ヴェンダース監督(77)の最新作。同監督が東京・渋谷を舞台に、役所を主演に撮影した最新作で自ら脚本も担当した。製作は、22年5月に東京で開かれた会見で発表された。ヴェンダース監督は、世界的に活躍する16人の建築家やクリエイターがそれぞれの個性を発揮して、区内17カ所の公共トイレを新たなデザインで改修する、渋谷で20年から行われているプロジェクト「THE TOKYO TOILET」のトイレを舞台に新作を製作。そのため、11年ぶりに来日し、シナリオハンティングなどを行い、撮影は全て東京で行った。役所は、東京・渋谷でトイレの清掃員として働く平山を演じた。
製作国は日本で、「ユニクロ」を中心とした企業グループファーストリテイリングの柳井正代表取締役会長兼社長の次男・柳井康治取締役(46)が、プロデューサーを務めた。同氏が個人プロジェクトとして21年に立ち上げた、有限会社MASTER MINDが企画発案、出資、製作、プロデュースを手がけた。同氏にとっても映画初プロデュースとなった作品で、いきなりカンヌ映画祭男優賞を獲得した。また共同脚本・プロデュースに名を連ねる高崎卓馬氏(53)は、電通グループグロースオフィサーでJR東日本「行くぜ、東北」などを手がけたクリエーティブディレクター。一方で小説家の顔も持ち、映画、ドラマの脚本も多数、手がけてきた。映画の脚本は2009年(平21)の岡田将生の主演映画「ホノカアボーイ」(真田敦監督)以来、2作目。
◆役所広司(やくしょ・こうじ)本名・橋本広司。1956年(昭31)1月1日、長崎県諫早市生まれ。大村工業高校卒業後、上京して千代田区役所土木部に4年間勤務。200倍の難関を突破し78年、無名塾に入る。初舞台は同年「オイディプス王」。80年、NHK「なっちゃんの写真館」でドラマ初出演。83年の同大河ドラマ「徳川家康」で織田信長を演じ注目される。96年の映画「Shall we ダンス?」では主要映画賞を総なめ。ほかに「うなぎ」「失楽園」「ユリイカ」「SAYURI」「バベル」「パコと魔法の絵本」など。179センチ、血液型AB。
◆「PERFECT DAYS」東京・渋谷でトイレの清掃員として働く平山(役所広司)は、淡々と過ぎていく日々に満足している。毎日を同じように繰り返しているように見えるが、彼にとってはそうではなく、常に新鮮で小さな喜びに満ちた、まるで風に揺れる木のような人生である。昔から聴き続けている音楽と、休日のたびに買う古本の文庫を読みふけるのが喜びで、いつも持ち歩く小さなフィルムのカメラで木々を撮る。平山は木が好きで、自分を重ねているのかもしれない。ある時、平山は思いがけない再会をし、それが彼の過去に少しずつ光を当てていく。平山が休日に訪れる居酒屋のママを歌手の石川さゆり(65)が演じる。石川が女優として映画に出演するのは、1979年(昭54)の映画「トラック野郎・故郷特急便」以来、44年ぶりとなる。ママの元夫を三浦友和(71)が、平山の妹を麻生祐未(59)が演じる。