ミュージシャンで作家の辻仁成(64)が4日までに自身のブログを更新。日本テレビ系ドラマ「セクシー田中さん」原作の漫画家、芦原妃名子さんの急死に対する同局側の当初のコメントに対し「違和感と憤り」を感じたことをつづった。
芦原さんの訃報が伝えられた1月29日、日本テレビは番組公式サイトで追悼するとともに、「本作品の制作にご尽力いただいた芦原さんには感謝しております」などとコメントした。
芦原さんは同日に栃木県内で発見され、死亡が確認された。50歳だった。同28日夜に知人から警視庁に行方不明届が出されていた。直前に、ドラマ内容についてスタッフと意見の食い違いなどがあったことを自身のSNSで明かしており、その後、当該文章などを削除。28日午後に「攻撃したかったわけじゃなくて。ごめんなさい」と投稿していた。
フランス在住の辻は1月31日に更新した自身のブログに「漫画家さんの死に心痛を覚える。ドラマが原作者を殺すことに反対する」というタイトルの文章をアップ。訃報に「衝撃を覚えている」とし、「彼女が描いた漫画のドラマ化の段階で、テレビ局側とトラブルがあったようだが、そのテレビ局によるニュースをネットで確認したが、『感謝しております』という表現に違和感と憤りを覚えてならなかった」と述べた。
辻は「ぼくは、ちょうど同じタイミングで、韓国ドラマの原作を担当している。しかし、仲介に入った日韓のエージェントが、ドラマ化の発表を原作者であるぼくに知らせなかった。
そのニュースが世界に配信され、ぼくは知人から、ラインを通じて、知らされたのだ。信頼できなくなり、この日記で、(原作は引き下げないが)もうこのドラマには関わらない、と書いた。当日記を読まれてきた皆さんはその経緯をご存じだと思う。契約では、『撮影前に脚本を読ませる。原作に忠実に再現をする』というような内容が盛り込まれていたので、それ以前の問題として、怒った父ちゃんであった」と自身の原作作品のドラマ化に関する事態も記述。
その後、同ドラマ制作会社のプロデューサーが辻の思いを監督に伝え、監督から長文の誠実な謝罪手紙がきたり、実際に会って話し合ったという。辻は「怒っていたが、監督の誠意に、納得は、できたのだった。最終的に、ぼくはいつも同じことだが、原作とドラマは別ものだから、監督が思うよう演出をしてください、と伝えて、現在に至っている」とその後の経緯もつづった。そして「ぼくは映画監督でもあるので、とくに小説をドラマにすることの難しさもわかる。これは、同じにやりたくても、実に難しい問題が横たわっている。映画ならまだしも、(いや、映画は逆に短すぎて、小説を端折る形になる)、逆に、ドラマだと尺が長く、漫画の場合がどうか、その点はよくわからないが、小説をそのままテレビドラマにするのは困難なのだ」と書いた。
00年7月期のフジテレビ系連続ドラマ「愛をください」の全脚本を書いた経験も振り返り「小説も存在するが、ドラマと小説では速度が違いすぎて、小説の原案をそのままドラマにすることは不可能なのだった。しかし、芦原さんがテレビ局と結んだ契約は、『原作に忠実に再現する』ということが盛り込まれていたというし、他にも、相談できる関係者はいたはず。芦原さんが、約束が違うと悩み、ご自身で最後の方の脚本を書かれたようだが、いろいろとしこりが残ったのだろう、傷つき、そこに信頼を託せる人間が介在していなかった、ということが一つの要因となり、ごめんなさい、というような原作者なのに謝罪しなければならない辛い立場においやられ、お亡くなりになるという最悪の事態になってしまった。誰が悪いというのは、部外者のぼくにはわかるはずもないが、少なくとも、原作者の、原作、という言葉の重みを思い出してもらいたい。そこに読者がいて、そこにもともとの原案、つまり、作者の意思があって、生まれた作品の根っこなのである。それなのにテレビ局は、他人事のようにニュースで『感謝しております』、は違うのじゃないか、と思うのはぼくだけだろうか」とした。
そして「人がこの問題で苦しみ、亡くなられて、感謝、という言葉は、おかしい。双方にどのような行き違いがあったのか、わからないが、死は残酷すぎる。テレビ局や脚本家さんや制作サイドや出版社を攻撃するな、という人がいるが、攻撃ではないし、第二、第三の不幸が訪れる前に、このような体質を改めるべきではないか、と思うのだけれど。原作者に誰が寄り添うことができるのか、と自分のことではないが、悲しすぎて、ため息がこぼれる。なぜ、芦原さんが死ななければならなかったのか、テレビ局は第三者の究明委員会を結成し、視聴者や芦原さんの家族やファンに対して、また、ドラマのスポンサーをやった企業に対して、説明する必要があるのじゃないか。彼女の痛みは、彼女の作品が好きだった人だけじゃなく、コツコツと作品を創作してきたあらゆる表現者に通じる苦悩なのだ」と私見を述べた。
フランスで、出版社が著書の全文から約100箇所勝手に削除していたというトラブルで「心を患った」という過去の件も記し、辻氏は「芦原さんが抱えたであろう苦しみがぼくには、なんとなく、よくわかる。彼女と仕事をしてきた人たちは、彼女の心にもう少し、少し、寄り添えなかったのだろうか? 権力の前で苦しむ原作者の声なき声が、心を軋ませる。あの日の自分と重なり、言葉が強くなってしまったが、ものをゼロから生み出す者は、人に言えないほど苦しい思いをし、作品を自らの血の中からひねり出している。そして、その作品は子供のような存在なのだ」と思いを続けた。



