将棋の第91期ヒューリック杯棋聖戦を17歳11カ月の史上最年少で制し、初のタイトルを獲得した藤井聡太棋聖(王位=18)の就位式が23日、都内のホテルで行われた。新型コロナウイルス感染拡大防止のためパーティーは行われず、式だけ。一方、式の後に記者会見するという、前例のない形となった。会見では、藤井の師匠である杉本昌隆八段(51)の師匠、故板谷進九段の墓前に、タイトル獲得の報告をしたことを明らかにした。

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就位式に臨んだ藤井は、少し緊張していた。タイトル獲得者が式の最後に行う、恒例の謝辞が始まった。「例年とは違う大変な状況の中でタイトル戦を開催していただき、感謝しております。初めてのタイトルであり、多くの得難い経験を生かして成長できればと思います」。今後、何度もタイトルを獲得するたびに行うことになるであろう、スピーチをこなした。

式は異例ずくめだった。通常、お祝いに駆けつけるはずの500~1000人規模のファンはおらず、パーティーもなし。コロナ禍で、出席したのは関係者や報道陣など100人弱。ステージ登壇者も出席者もマスク着用で社会的距離を取り、淡々と進められた。

式の後には異例の会見も行われた。3年前の12月に行われた囲碁の井山裕太名人(当時)の就位式は、同日朝に井山と将棋の羽生善治九段が2人そろって国民栄誉賞という報道がなされたことを受けて、式後に場所を変えて行われた。就位式後の記者会見は、将棋では前例がない。藤井の存在自体が社会現象になっていることの裏返しだ。

22日には、王将戦挑戦者決定リーグ戦で羽生に敗れたばかり。質疑で話が及ぶと、藤井は「ちゃんと寝付けるかどうか心配だった。ちゃんと寝ることができてよかった」と笑った。

忙しい合間を縫い、師匠の師匠「大師匠」に当たる板谷九段のお墓参りをしてきたことも明かした。板谷九段は、「東海にタイトルを」との悲願を掲げ、普及や指導に熱心だった棋士だ。その悲願を実現させた立役者は「タイトル獲得の報告ができたのはとても良かった」と、振り返った。

弟子・藤井について、杉本八段は「これからとてつもない記録を塗り替えていくと思う」と評する。その第1歩となる初の就位式で、藤井はタイトルホルダーとしての責任感をにじませた。「将棋界を代表する立場として、対局では全力を尽くしたい。盤上でもそれ以外の面でも一層精進して成長していけたらと思います」。第一人者を目指して飽くなき挑戦を続ける。【赤塚辰浩】

〇…藤井2冠の次の対局は10月5日、王将戦挑戦者決定リーグ2回戦、豊島将之2冠戦。黒星発進のリーグで、過去5戦5敗の相手とぶつかる。連敗阻止できるか焦点だ。同21日は順位戦B級2組5回戦、村山慈明(やすあき)七段戦がある。順位戦は現在4連勝中。村山には、昨年8月の叡王戦七段予選で敗れている。

◆就位式 将棋や囲碁のタイトル戦の閉会式兼表彰式。タイトル獲得者が決まって1~2カ月後に行われ、ファンを招いてのお披露目やお祝いの場でもある。通常は主催・協賛のあいさつ、表彰、祝辞、謝辞という流れ。式後にはパーティーが行われるが、新型コロナウイルス感染拡大防止で、2020年度は式だけに簡略化されるケースが多い。表彰では、宿泊券や特別賞が贈られることもあり、今回は、17歳11カ月でのタイトル獲得にあやかり、ヒューリックからの171万1000円の宿泊券や、フジテレビ遠藤龍之介社長からの50万円相当の和服仕立券が贈られた。