防衛増税や旧統一教会、閣僚のドミノ辞任…。岸田文雄首相は昨年の多くの宿題を2023年に持ち越し、新年を迎えた。今年の永田町はどんな動きになるのだろうか。

政治ジャーナリスト角谷浩一氏と新聞読みの名手、プチ鹿島氏が語り合った。「本当は怖い岸田政権」(プチ氏)と名付けられた、首相による「サミット後の解散・総選挙」(角谷氏)もあり得るという新春永田町展望。2回にわたりお届けします。【取材=中山知子】

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2人の対談は「岸田文雄論」からスタートした。

角谷氏 岸田さんは、なかなかつかみどころのない人。決意がある人でもない。スピード感がないともいわれてきたが、突然聞いてもないことをやるって言ったり。ちょっと不思議なスタイルですが、官邸を見ていると周りはみんな財務省という感じがする。岸田さんの手法というより、安倍政権時代の経産省から財務省の手法に変わったのかなという感じがします。

プチ氏 なるほど。安倍さん、菅さんのころからスタイルが変わったのですね。

角谷氏 政権発足から1年たった頃から、よく言えば覚醒、悪く言えばこのままじゃまずいと急にやる気を見せたような、見せないような。周辺いわく、支持率下落でイライラしたり怒鳴り散らすとか、普通の総理ならありそうですが、そういう感じではないみたい。よく言うと鈍感。よく言ってないか(笑い)。

プチ氏 「鈍い」というのは聞いたことがあります。

角谷氏 さらに、粘り強い。野球部出身ですが「ピッチャーで4番」ではなく「セカンドで8番」が合っていると自分で言える人。昨年の参院選までおとなしかったのは安倍、菅政権への遠慮でしょう。

プチ氏 昨年末、国会が終わった後に防衛増税や原発再稼働、新設。大事なことを急に言い出しましたよね。年を越したからみんな忘れるだろうと思われてると思うと、なんかいやだなと思うんですよね。

角谷 僕は全部財務省の作戦と思う。防衛3文書の問題も財務省の振り付けと思うのは、目的は増税なんだと。防衛費なんてGDP比2%と言っていただけで何を買うために必要かの説明はなかった。日米首脳会談が近いことも急いだ理由かもしれないが、あまりにも大事なことをいっぺんに2つもやろうとした。

プチ氏 国会やっていない時に大事なことを言ったりやったり。ソフトな感じで出てきた岸田さんですが、むしろえげつないことをやっている。

角谷氏 内緒にしている時に上手にかわすのがうまい。

プチ氏 アドリブには弱いんです。計画は自分なりでも振り付けのままやるのは良いけど、政治家たるもの、アドリブになった時にどう振る舞うかが大事なのに。

角谷氏 最初は、岸田さんが一生懸命しゃべっているというところだけで国民はよかったが、いまはしゃべればしゃべるだけ「のらりくらり言っちゃって」というふうに聞こえている。

プチ氏 政権発足後、岸田さんは安倍さんができなかったことを全部のみ込むんじゃないかと思い、「本当は怖い岸田政権」と僕は名付けた。予想どおりの感じになってきた。僕はタブロイド紙を読むのも好きなんですが、安倍さん、菅さんはタブロイド紙は推しと批判で分かれていた。でも岸田さんはどちらからもたたかれるんです(笑い)。

角谷氏 内緒にしている時にかわすのがうまい。さくっとやってしまうところが侮れなくなってきた。政権も2年目ですが、安倍さんの時より苦労していないんじゃないか。岸田さんは粘り腰のしぶとい政権になるかもしれない。

プチ氏 「ポスト岸田」っているんですか。

角谷氏 すぐに河野太郎氏や茂木敏充氏の名前が出ますが、忘れてはいけないと思うのは石破さん。

プチ 支える仲間はどうなんですか。

角谷氏 いい質問ですね。減りに減っている(笑い)。党内の人気や求心力はありませんが、世論調査で、場合によっては岸田首相より上のこともある。前回の総裁選は河野さんを支援しましたが、その後付き合っているふしもなく、あの時の都合だけだったんだなとも感じます。最近の石破さんは、「ゲル」といわれていた頃の顔ではない。ずいぶん優しくなってきた。

プチ氏 誰が石破さんをかつぐんでしょうか。

角谷氏 平成研(茂木派)が茂木さんではなく石破さんを担ぐ。麻生派は候補がいないし、安倍派は派閥がまとまるかも分からない。安定政権をつくるため、それそれの派閥が石破さんをシャッポにするというのは、もし岸田さんが自分から「辞める」というなど複雑な条件が加われば、あるかもしれません。

プチ氏 菅義偉前首相はどうですか。国葬の弔辞も評判で、再登板ムードも高まっている感じがします。

角谷氏 ないですね。菅さんもそういうふうにしてゴリゴリやりたいわけではないと思う。

プチ 菅さんは河野さんを担ぐんでしょうか。

角谷氏 河野さんか石破さんかといえば、石破さんのほうがまだ常識的だと思います。本当に消去法になってきました。今、自民党に総裁が務まる人は何人いるんでしょうか。

プチ氏 岸田さんは今年衆院解散をしますか。

角谷氏 外相を経験した広島選出の岸田さんにとって、広島サミットで平和を語るのが夢と考えると、サミットまではつつがなく政権運営を続け、勝てるようなら、という思いはあると思う。今年の秋から冬にかけては、衆院解散は考えられると思う。今年の秋、冬にむけてサミットを起爆剤にできるかですね。

プチ氏 僕はよく岸田首相のことを「風船おじさん」と言っているんです。ふわふわ漂っている。以前は支持率が受ける方に修正していたが今はそれもない。

角谷氏 安倍さんは、本当はやりたかったんだろうが機が熟していないから我慢したんだと、悔しそうな顔もするし、ぶち上げたが誰もついてきてくれなくて引っ込めたり、ある意味おちゃめだった。長期政権をにらんでいたから、焦らずにやろうとする努力もあったと思う。しかし岸田さんは長くやりたいのか、サミット終わったらよきにはからえと思っているかが、全然分からない。

プチ氏 その割には安倍さんより何でものんじゃう。

角谷氏 今までにはないタイプですよね。岸田さんの「のらりくらり」が粘り腰で、しっぽをつかませずにふわりふわりやっていくところが、長くやっていく分には、武器になるのかもしれません。(次回は3日に掲載します)

◆角谷浩一(かくたに・こういち)1961年(昭36)4月3日、神奈川県生まれ。日大卒。テレビ朝日報道局などを経て現職。永田町や霞ケ関に幅広い人脈を持つ。中央政策研究所主任研究員。TBS系「ゴゴスマ」コメンテーターなどメディア活動のほか映画評論家の顔も持ち、年間300本を見る。

◆プチ鹿島(かしま)1970年(昭45)5月23日生まれ。長野県出身。時事ネタと新聞読み比べ(14紙を購読)で知られ、政治、文化、スポーツなど幅広い分野から社会を読み解く。コラム連載は月間17本で、メディア出演多数。監督したドキュメンタリー映画「劇場版 センキョナンデス」が2月18日に公開。