「頑張り屋のプボ君」として愛されたディープボンドは、21、22年の凱旋門賞で世界の最高峰へ挑んだ。21年には前哨戦のG2フォワ賞で海外重賞制覇も果たした。
2度目の挑戦からもうすぐ4年-。
その調教の手綱を握っていた谷口辰夫調教助手(46)は今、ステージ4の肝内胆管がんと闘っている。骨への転移もあり、告知を受けた昨年7月からすでに1年以上の闘病生活が続く。
「朝からこんなに涙したのは初めて」
そんなメッセージが届いたのは、治療費のクラウドファンディングが始まった今月18日だった。
泣いたのは、悲しかったからではなかった。胸を打たれたからだ。
同い年の僕も企画段階から携わらせてもらい、たびたび顔を合わせてプランを進めていた。直前に立ち上げたSNSでも反響は小さくなかったが、クラウドファンディングでどれだけ支援が集まるかは読めず、僕自身も当日はサイトを見るのが怖かった。
だが、開始時刻の午前0時を過ぎると、たくさんの支援や応援メッセージが続々と寄せられた。
「ディープボンドと同じように諦めないでください!」「私も現在ステージ4のがんと闘病中で…」「競馬場で待ってます」
そんな言葉の数々が、谷口助手の心と涙腺を震わせた。
「正直、こんなにたくさんの応援メッセージをいただけるとは思っていませんでした。人はこんなにも優しくて温かいんだと、あらためて実感できました」
当然ながら、病魔との闘いは長く苦しい。治療においても激痛が伴うそうで、聞くだけでもつらいぐらいだ。それでも明るく振る舞い、面白おかしく話してくれる。常に前向きだ。そんな姿に、こちらがむしろ励まされてきた。
彼の胸にあるのは、かつてディープボンドと一緒に戦った元主戦騎手の和田竜二技術調教師(49)の激励だ。保険診療では延命治療しかできないと知り、あきらめようとしていた昨夏。公園で思いを打ち明けると、強い言葉で奮い立たされたという。
「俺とおまえでつくりあげてきたディープボンドは、1度もあきらめたことがなかった。何が何でも家族のために生きろ」
そう、妻と娘2人のためにも負けられない。
保険適用外の治療法に頼るしかなく、膨大な費用をまかなえればとクラウドファンディングを立ち上げた。和田竜師だけでなく、幸騎手、福永師、川田騎手、坂井騎手ら多くのホースマンが応援を表明した。いかにトレセンで信頼され、慕われてきたか。その人柄の表れだろう。
そして、あらためてディープボンドという存在の大きさを知らされた。谷口助手も実感したという。
「ディープボンドの偉大さや影響力はすごいんだとあらためてビックリしています。現役時代は毎日近くにいて気づかなかったことも多かったけど、今となっては僕を助けてくれている。やっぱり僕の人生でかけがえのないパートナーです」
温かい声援を受けながら、あきらめずに歯を食いしばって立ち向かう。やはり彼の相棒と姿が重なる。そんな「頑張り屋」の背中を少しでも支えていきたい。【太田尚樹】

