2連覇中の羽生結弦(27=ANA)が、五輪で初めて出遅れた。94年ぶりV3を目指して3度目の舞台に立ったが、まさかの8位。得意のSPで3年ぶりの不運に見舞われた。「氷に嫌われちゃったかな」。リンク上の穴に阻まれて4回転サルコーが1回転となり、五輪で初めて首位発進を逃す95・15点となった。
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1位ネーサン・チェン(22=米国)と18・82点差で迎えるフリーは10日に行われる。
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氷に愛された男が「嫌われちゃったかな」と苦笑いした。演技を終えるとミスした場所へ向かい、氷上を右手で触った。「ハマッた…」。穴があった。リンクから離れる際も、また触った。自身のエッジが描いた軌道と穴が交錯していた。
ほぼ1世紀ぶりの3連覇へ、最初のジャンプで悲劇が起きた。前日も当日も、そもそも公式戦のSPでは3年間も失敗がなかった冒頭の4回転サルコーが1回転になる。場内が凍りついた。「思わず防衛本能で」踏み切りの直後に回転をほどいた。本来は14点ほど稼ぐ得意技が0点になった。
「19年(世界選手権)のショートでも同じことがあって。ミリ単位で(滑走の軌道を)コントロールでき過ぎて、同じところで跳んでしまった」。正確さゆえに、当時は自身が作った溝に重なり2回転になった。反省から、今回は自身の“通り道“を避けたが、ほかの選手がトー(つま先を氷に突く)系ジャンプを跳んで、できた穴があった。「完璧なフォームで完璧なタイミングでいった瞬間、穴に。しょうがない」。石橋をたたいて渡った、その先に落とし穴が待っていた。
「ミスの原因を探しても整理がつかない。スケートのミスは全くなかった」。不運と言うほかない。取材エリアでも本音が漏れた。
「正直言って何か僕、悪いことしたかなって。悪いことしたからこうなったとしか考えられないミス。すごく、いい集中状態で。何ひとつ、ほころびがない状態だったので。だからこそ今すごく(思う)。何か嫌われることしたかなって。氷に嫌われたのかなって」
その後は完璧だった。4回転-3回転トーループはGOE(出来栄え点)4・07。連続ジャンプで4点超の加点を引き出したのは羽生だけ。芸術面の演技構成点「構成」の項目も9・54点で1位だった。試合2日前に中国入り。本番会場で練習したのは当日朝が初めてだったが「氷との相性はすごくいい」と問題もなく事故としか思えなかった。
SP世界記録(111・82点)をチェンに塗り替えられた。五輪で初めて首位発進できなかったが「頑張るしかない」と言ったフリーも強い。12年世界選手権はSP7位から銅メダル、17年の同大会はSP5位から優勝した。単純計算上、今回も自己ベスト(212・99点)を出せば銅メダルは可能。鍵を握るのは4回転半だが、言葉は厳しさを物語る。「一日一善じゃなく十善ぐらいしなきゃいけないのかな。あとは神のみぞ知る、ですね」。2連覇の羽生が初めて見る五輪の別の顔だった。【木下淳】
◆羽生のフリー展望 世界選手権3連覇中で首位のチェン(米国)とは18・82点差がつき、94年ぶりの五輪3連覇は極めて厳しい立場に追い込まれた。チェンは4回転4種5本を跳ぶ意向を持っており、2位と5・85点差でゆとりもある。現実的な目標ラインは10・75点差の3位(宇野)だろう。採点の目安では4回転ジャンプ1本=約10点。SPの得点に各選手のフリー自己記録を加えると、羽生は合計308・14点で3番手。完成度の高い演技を披露した上で、最終組を待つ立ち位置をとりたい。
上積みとして期待されるのが羽生がこだわるクワッドアクセル(4回転半ジャンプ)だ。基礎点は1本で12・50点と全ジャンプで最も高く、成功時には出来栄え点(GOE)で加点も見込まれる。SP前日には羽生も「この五輪で上にいくためには絶対に必要だと思っている」と口にし、自身の夢が実現した先に3大会連続メダルが見えてくる。




