「姉妹よりもライバル」-。スピードスケートの高木菜那(29=日本電産サンキョー)と高木美帆(27=日体大職)の姉妹は15日の女子団体追い抜きで2大会連続のメダルを獲得した。惜しくも連覇を逃し、転倒した姉の肩を妹は無言で抱いた。プライベートの2人は仲がいいものの、リンク内では同種目を争うライバル同士。姉妹の関係を本人たちに迫った。菜那は19日のマススタートで連覇、美帆は17日の1000メートルで個人種目初の金メダルを狙う。

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「仲いいですよ。悪くなくて良かったって思いますよ」。

高木美は笑った。

競技生活では同じ種目で代表を争う2人。これで私生活までバチバチだったら大変だった。そんな思いから出た言葉だろう。

オフの日は2人でカフェに行くこともあり、世間話をする。「まあカフェに行かなくても、どこでも話せるんですけどね。本当にずっと一緒にいるので」と、また笑った。

中学時代からトップレベルで活躍した妹の日本代表ユニホームを高木菜が高校時代「燃やしてやろうと思った」というのは有名なエピソード。高木美は当時「その話は聞いてなかった」という。

より親密になったのは、ともに地元を離れてから。「高校時代の思春期を終えた頃からだと思いますよ。深い話をするようになったのは。カフェでは普通にいろんな話をしています」と振り返った。

しかし、競技になると2人の関係は一変する。東京五輪ではきょうだい、姉妹がメダルを獲得し、話題を呼んだ。柔道の阿部一二三、詩や、レスリングの川井梨紗子、友香子の「きょうだい愛」がクローズアップされた。

この観点で言えば冬季五輪では高木姉妹。しかし、東京五輪を見ていて「私たち姉妹は違う」と、ともに感じていた。

姉の高木菜は「私たちは姉妹でもあるけど、同じ種目で戦うライバルでもある。1人が代表に残っても、1人が落ちることだってある」。

親族でも食うか食われるかの厳しい世界。「『一緒に行こうね』より、どちらかが落ちても自分は五輪に行きたいと思っているのが私たち。そこが違うところ」と語った。

姉がこう言ってると水を向けずに高木美に聞いても「階級が違ったり、戦う舞台が違うので、私たちとは違うなと感じた」と同じ答えが返ってきた。「姉とあらためてこういう話はしないけど」と前置きした上で、続けた。

「東京五輪を見ていて、『きょうだい、姉妹で不可能を可能にする』とかメダルを取ることに感動することはあったけど、私たちがそれをしたいと思ったことはない。ライバルと姉妹が同位置にある」と断言した。

大会序盤、中国メディアに姉妹の関係を聞かれ「その質問は大会中は答えたくない」と言い返した高木菜。強烈な個と個。これが団体追い抜きになれば強固なチームワークとなる。北京では惜しくも連覇を逃したが、高木菜は「姉妹というより仲間。互いに信頼してるし、1人の高木美帆という選手を信頼している」と日々思っている。

レース直後のメダリスト会見。妹は「転倒は1人にかかる負担がどうしても強い。起きてしまったことを背負う必要はないけど本人はそうはいかないというのも、長く過ごしていると感じる」と姉を思いやった。

その姉はひと言だけ。「ずっと一緒に練習してきて本当にこのメンバーでしかできないチームパシュートを4年間、貫き通せた」。互いの尊敬が2人をつないでいた。【三須一紀】