これまでの大会に勝るとも劣らない開幕戦の衝撃だった。
カタールに期待していた。南米4位のエクアドルは強豪だが、カタールもアジア王者。しかも、過去開催国の初戦黒星はない。豊富な資金力でジュニア世代から育てた選手を国内クラブに集めて徹底強化。この日のために準備してきたチームだけに、勝利するのではと思っていた。
しかし、立ち上がりから空回りだった。開始直後の失点こそ取り消されたが、その後も一方的に攻められた。ボールを奪っても、相手のプレスにすぐ失う。攻めても形にならない。満員の観客、国の期待、過度の重圧があったのか、19年アジア杯決勝で日本を破った「強さ」はなかった。
02年日韓大会を思い出した。それまで未出場国での開催はなかったから、98年フランス大会出場は必須だった。苦戦が続く中、日本協会関係者が言った。「W杯を経験しないままホームで初戦を迎えたら、平常心では戦えない」。その意味が、ようやく分かった。
W杯の開幕戦は、単なる64分の1ではない。主審のジャッジや大会の全体像など傾向が分かる。開幕戦が大会の「スタンダード」。1試合に、続く63試合の要素が詰まっているのだ。
エクアドルの見事なサッカーから「実力国が実力を出しやすい大会」だと思った。空調がきいてピッチ上は寒いくらいの絶好のコンディション、移動による負担もない。ケガ人が続出するなど不安要素もあるが、実力国にとっては戦いやすい大会になりそうだ。
特に前半のエクアドルは高い位置でのプレスがきいていた。ハイプレスからショートカウンターは日本も目指すように世界のトレンド。体力消耗が激しく90分間続けるのは難しいが、暑さがないなど環境の良さと5人の交代枠が長時間のプレスを可能にしそうだ。
VARの力もあって前回大会で歴代最多22得点を記録したPKでのゴールは、さらに増えそうだ。開幕戦の先制点もPK。オフサイド判定のAI導入で受難のストライカーに、PKの得点チャンスが与えられる。
攻守の切り替えが多く、速くなれば、接触プレーも増える。AIのパトロールで、イエローカードも多発しそう(AI判定で文句は減りそうだが)。開幕戦も多めの6枚。オフサイド判定まで機械に委ねた審判が、存在を誇示するために乱発するというのは、さすがに言い過ぎだろうが。
まだ1試合だが、開幕戦も見どころたっぷりに楽しめた。これから63試合、どんなドラマが待っているのか。地球が熱狂するお祭りは、始まったばかりだ。【荻島弘一】(ニッカンスポーツ・コム/記者コラム「OGGIの毎日がW杯」)