理想を捨てて臨んだハリルジャパンが大会2連覇を逃した。東アジア杯第2戦で日本(FIFAランク50位)は宿敵韓国(同52位)と引き分け。逆転負けした初戦の北朝鮮と合わせて勝ち点1にとどまり、最下位に転落、9日の中国との最終戦を前に連覇の可能性が消えた。バヒド・ハリルホジッチ監督(63)は守備的に戦うことを選択したが、6月のW杯アジア2次予選シンガポール戦から3戦勝ちなしとなった。

 有無を言わせぬ強烈な個性はどこへ消えたのか。試合後の会見。ハリルホジッチ監督は椅子に深く腰掛け、頬づえをつき、所在なさげに結果を振り返った。「この大会で最も強い相手と引き分けた。少し満足。今の状態からすれば満足すべきだ」。勝利への野心を強く求めていた男が、大会連覇を逃す引き分けを評価した。冷静というより元気がなかった。

 「私の就任後、最もチャンスがなかった」と認めたように、MF山口の同点弾しか見せ場がなかった。監督がヒートアップしたのはピッチ外。後半開始直後、ベンチ前で大きな箱に腰掛けた。第4の審判に指摘されると食ってかかり、同23分にも再び同じ審判と小競り合い。その間にMF李在成のヘッドがクロスバーを直撃し、あわや失点のシーンを完全に見逃していた。

 理想を捨てた。逆転負けした北朝鮮戦から中2日。先発を5人変更し、戦術を変えた。「リアリスト(現実主義者)にならないと」。高い位置からのプレスは控え、低く構えた。代名詞の縦に速いサッカーも影を潜めた。「前へ行くな、とは言ってない。変わらず要求している」と説明したが、中盤の選手には「前に行きすぎるな。横にも散らせ」と逆の指示を出していた。初戦は「縦への意識」が強すぎ、消耗して自滅した。その反省で完全に萎縮していた。

 アルジェリア監督時代の14年W杯ブラジル大会。1次リーグ第2戦で韓国と対戦し4-2で圧勝した。当時も、今回と同じく直前の試合から先発5人を変更。似た手を打ったが、気持ちが消極的だった。前半、宿敵の韓国相手にまず守備を固めた姿は、敵将シュティーリケ監督を「日本が我々を研究して戦術を変えてきた。大きなステップだ」と喜ばせた。その守備ブロックの高さも「選手たちで判断しろ」と現場任せ。3月のウズベキスタン戦では自ら守備ラインの高さを動かし「わなを仕掛けました」とご満悦だったが、あの自信満々だった姿はなかった。

 大会前は、球際の争いを意味するフランス語「デュエル」を連呼した。「決闘」とも訳される球際の戦いが生命線だったが、局面で後手に回った。前半25分にはDF森重が主将マークを巻いた左腕でハンド。先制PKを与え、追いつくのが精いっぱいだった。これでW杯2次予選シンガポール戦から3戦勝ちなし。泣き言、言い訳、の次は意気消沈。ハリルホジッチ監督が小さく見えた。【木下淳】