日本サッカー協会(JFA)の審判委員会が17日、東京・本郷のJFAハウスで行われ、13日のJ1リーグ横浜F・マリノス-浦和レッズ戦(3-1、日産ス)で起きた不適切な対応について話し合われた。終了後、小川佳実委員長(60)が取材に応じ、松尾一主審(46)にJFA管轄公式戦の1カ月の割り当て停止、相楽亨副審と大坪博和第4の審判員に1カ月の資格停止(いずれも7月14日から8月13日)の措置を下したと説明した。田尻智計副審は1試合の割り当て停止となった。

 

問題の場面は、横浜1-0浦和の後半14分。横浜のFW遠藤が左サイドから放った右足シュートが、オフサイドの位置にいたファーサイドのFW仲川の胸に当たり、ゴールマウスに入った。まず得点となった後、浦和側の抗議を受けて審判団が協議の末、いったんはオフサイドになって取り消された。しかし、9分間の中断をへて再びゴールと認められた。判定が二転した異例の状況に監督や選手がヒートアップ。場内は騒然となった。

 

この件について、小川委員長は「また不手際で混乱を招き、ご心配をお掛けしたことをおわびします」と切り出してから経緯の説明を開始。「松尾主審には得点者が見えず、田尻副審(メーンスタンドから見て奥側)は仲川選手がオフサイドポジションにいたことは分かっていたが(マークした浦和MF)宇賀神選手のオウンゴールか、仲川選手に当たったのかは背中越しのため分からなかった。もし仲川選手が触っていることが分かれば、オフサイドになる」と無線のコミュニケーションシステムで確認したという。ただ、反対エンドの相良副審と第4の大坪審判員も分からず「4人の審判団の中には、ボールがゴールに入ったという事実だけが残った」。それで得点となった。

 

その後、状況が動いた。まだ試合が中断していた中で、相良副審が第4の大坪審判員に「運営に聞けば得点者が誰か分かるのでは」と確認を求めた。もし仲川であれば、オフサイドポジションにいたことは田尻副審が把握しているため、オフサイドの判定を下せる、と考えての行動だったという。結果、仲川という情報が入り、相良副審が松尾主審に伝え、オフサイドに判定が覆された。

 

しかし、ここで大きな問題が発生した。相良副審は松尾主審に伝える際、情報元が第三者の運営であることまで松尾主審に伝えていなかった。これに気付き、オフサイドに判定が変わった後に伝え直すと、松尾主審が「それはいけない。4人の審判団が持つ情報以外では判断できない」と、オフサイドを取り消して再び得点に戻した。

 

この経緯を横浜のポステコグルー監督と浦和の大槻監督を呼んで伝え、続いて選手にも謝りながら説明した。浦和の複数選手がピッチ内で聞いたという、松尾主審の「自分では決められない。運営が決めること」との発言については、小川氏は「はっきり松尾主審にも聞きましたが、これまで説明した通りの内容を両チームの監督と選手にお伝えした、と。運営の方から情報が入ってしまったので、判定を変えることはできません。それ以上のことは言っていない、と聞いた」と強調。運営が決めた、のは得点のジャッジではなく得点者の情報で、判定に用いることはできない。映像を見ている運営から外部情報を得てしまった。この珍しい説明が「運営」という普段は出てこないワードとともに、誤解を生むきっかけになったようだ。

 

審判委員会では、試合の翌14日に松尾主審と直接面会して話を聞き、ほかの3人からは電話で聴取した結果、審判団の処分を決定。松尾主審が1カ月の割り当て停止、相良副審と第4の大坪審判員は、競技規則に反して外部の情報を取りにいった行為を重くみて、主審より重い1カ月の資格停止とした。小川氏は「裁量権が一瞬とはいえ、外に出てしまった。テクノロジーが発展し、誰もが映像を見ることができる中で4人の審判だけは、そういった情報なしで判定を下さなければいけない。難しい。ただし、越えてはいけないところを越えてしまったと重く受け止めて、措置を決めました」と説明した。

 

そして、Jリーグが21年からJ1での全面導入を検討しているビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)の前倒しを求めていく考えや当該審判のサポート体制、20年を目標に組織体制を見直していく考えを表明した。8月からの導入を検討していた追加副審については「シーズン途中に取り入れると公平性、公正性を保てない」などの意見を元に、現在は白紙となっていることを明らかにした。【木下淳】