史上初のノーサプライズ・ジャパンの誕生だ。日本サッカー協会(JFA)は5月31日、都内のホテルでワールドカップ・ロシア大会に臨む日本代表23人を発表した。
日本代表MF宇佐美貴史(26)がW杯メンバーに初選出された。G大阪を指揮した西野監督の下、高校2年でプロキャリアをスタートさせた正真正銘の西野チルドレン。ドイツ2部デュッセルドルフでも両翼コンビを務めたMF原口元気(27)とともに、逆境から「奇跡」を狙う西野ジャパンのキーマンとなりそうだ。
宇佐美の顔にようやく笑みが浮かんだ。無数のフラッシュを浴び、初めてW杯メンバーに選出された実感が湧いた。
「ほっとした。でも、スタートラインに立ったにすぎない」
会見は家族と一緒にテレビで見た。妻蘭さんは涙を流して喜んだといい「僕のサッカーに対して泣いたのは初めてだった。気持ちを高めて準備したい」と、かみしめるように誓った。
西野監督の下で始まったプロ生活。G大阪ユースから高校2年でトップに飛び級昇格し、17歳でデビューした。「至宝」と呼ばれていた逸材は「まさか西野さんと一緒に、西野さんのチームでW杯を戦えるとは1ミリたりとも想像していなかった」。26歳でつかんだ初めてのW杯切符も恩師の下。「ありがたいし、監督が決めたことは全てやっていこうと思う」と、チルドレンらしく指揮官に全てをささげる覚悟だ。
一時は諦めかけたロシアへの道。2度目の海外挑戦となった16年夏、アウクスブルクでは出場機会に恵まれず、サッカー選手を続けられるか、という窮地まで追い詰められた。だが「最後に自分を突き動かしたのは意地。サッカー選手を続けるためにW杯を目標にして行動した」。17年夏には当時2部のデュッセルドルフへ期限付き移籍。全ては「W杯のため」だった。
「2部への移籍を選べたことが大きかった。プライドをバラバラにして崩壊させて、また新しい気持ちを立て直していった。W杯に出るための決断は間違いではなかった」
今年に入って、所属クラブで4試合連続得点を記録するなど好調を維持。プロ10年目で初めてW杯の舞台に立つ。だが一方で、日本のW杯出場を決定づけるゴールを決めたG大阪の後輩MF井手口が落選。「僕は彼ら(井手口、浅野)を尊敬している。僕はW杯に連れてきてもらった立場」。だからこそ、大舞台に立つ責任感はより一層強い。
「ある程度、国民に喜んでもらえるような結果が出せた南アフリカ大会。逆に積み上げがあったのにうまくいかなかったブラジル大会から、2大会連続で国民を失望させることはしちゃいけない。ブラジルでの悔しさや失望を希望に変える結果にしていかないと」
燃えたぎる闘志を秘めた宇佐美は、全身全霊をかけて戦う。【小杉舞】