着地した丸山希の先に、高梨沙羅と伊藤有希が両手を広げて待っていた。
2月7日(日本時間8日)のミラノ・コルティナ・五輪(オリンピック)ジャンプ女子ノーマルヒル。日本勢2大会ぶりのメダルを確実にする2回目の飛躍の直後、2人は祝福の歓声を白銀に響かせて駆け出し、殊勲の後輩を抱きしめた。まるで団体で銅メダルを獲得したような光景だった。
2人も直前まで丸山と同じように、表彰台に上がる自分に大いに期待していたに違いない。そのために4年間、限界を超えた猛練習と我慢を重ねてきたのだ。しかし、結果は29歳の高梨が13位、31歳の伊藤は17位に沈んだ。悔しくないはずがない。それでも高梨は「ノゾミちゃんがメダルを取った姿を間近に見て幸せな気持ちになりました」。伊藤も「本当にうれしい」と笑っていた。
これは人としてなかなかできることではない。おそらく競技力を磨き、世界中のライバルと切磋琢磨(せっさたくま)する中で、心もしっかりと鍛えて、アスリートにとって何よりも大切なスポーツマンシップを身に付けてきたのだろう。同じ日本人として誇らしく、心が温かくなった。
歓喜の声を上げて抱き合う3人の姿を見ながら、丸山のメダルは日本チームで引き寄せたものでもあるのだと思った。
日本の女子ジャンプの歴史は高梨と伊藤の歴史でもある。2011~12年シーズンにW杯がスタートし、14年のソチ大会から五輪種目になった。2人はその最初から出場を続けるパイオニア。高梨は男女通じて歴代最多のW杯通算63勝を誇り、18年平昌(ピョンチャン)五輪では銅メダルを獲得した。W杯9勝の伊藤も15、17年の世界選手権の銀メダリストだ。
一方で高梨はW杯13戦10勝の金メダル最有力候補として臨んだ14年ソチ五輪で4位に終わり、22年北京五輪の混合団体ではスーツ規定違反で失格した。伊藤は五輪では14年の7位が最高順位。栄光も敗北も挫折も知る世界トップレベルの先輩を、丸山はずっと身近に見て、学んできた。そんな恵まれた環境が27歳の初陣メダルの原動力になったのだと思う。
ノーマルヒルに加えて今季から初採用されたラージヒルが15日(日本時間16日未明)に行われる。「1本目は渋かったけど、2本目はいいジャンプができた。この感覚を次につなげたい」と高梨は再び前を向いた。W杯今季6勝の新エースの丸山にはさらに上が期待されるが、後輩のメダルに刺激を受けた2人の大ベテランも、きっちりと修正して巻き返してくるはずだ。【首藤正徳】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「スポーツ百景」)


