4年前のラグビーワールドカップ(W杯)イングランド大会で、日本が南アフリカから金星を挙げたことは記憶に新しい。あの試合で日の丸のポンチョを着た1人の日本人が号泣する姿が、国際映像で流れた。世界に知れ渡った「熱すぎるオジさん」。試合前の君が代斉唱から涙を流し、勝利の瞬間は子供のように泣きじゃくった名物ファンの古村大輔さん(62)は、金星を再現した9月28日の日本-アイルランド戦を、どこで見ていたのだろうか。

実は、あの「熱すぎるオジさん」は、私が20代の頃、兵庫のラグビーチームで日本一にもなった六甲クラブ(現六甲ファイティングブル)で一緒にプレーした大先輩でもある。グラウンドの外では優しい紳士だが、いざ笛が鳴れば闘犬のように熱かった。当時の主将は、日本にラグビーをもたらしたと言われる田中銀之助の曽孫で、神戸製鋼から慶大監督まで務めた田中真一さん。アイルランド撃破から一夜明けた29日、古村さんの携帯電話を鳴らすと、相変わらず元気な声が響いてきた。

「昨日は、生では見られなかったんや~。花園であったアルゼンチン-トンガのボランティアをしててね。ちょうど日本が前半を終えた頃に終わって、車の中で奥さんと一緒に見ようとしたんやけど、これがまた(自宅の)三重への帰りが山道やから、映像が途切れ途切れ。途中から映らんようになってしまってね。勝った瞬間は、声だけ聞いていましたわ。涙が出てきましたね。帰ってから録画で見て、やっぱり泣いた」

前回大会は神戸製鋼で活躍した元日本代表ロックの林敏之さんに誘われ、イングランドまで足を運んだ。だが、日本開催となった今大会はボランティアに専念しチケットは買わなかった。その理由を問うと、いかにも古村さんらしかった。

「自分が買うのなら、そのチケットを誰かに買ってもらって、ラグビーの良さをみんなに感じて欲しい。スタジアムで応援するだけが、W杯ではないから」

とはいえ、ラグビーの神様は放っておくはずがない。フランス企業でW杯とパートナー契約を結ぶソシエテ・ジェネラルが、準々決勝のチケットを送ってきたそうだ。

さすが、世界に顔が知れただけある。10月20日、東京スタジアム。日本がA組1位突破を果たせば、B組2位との対戦になる。B組はニュージーランドと南アフリカが1、2位を争う。もしや…。ふとそう考えたのは、私だけではなかった。

「日本が勝ち上がったら、どうやら南アが来そうや。偶然なんか、何かの縁があるんか。不思議なもんやね~」

勝利の女神ではなく“勝利のオジさん”。日本が南アに勝って、世界の4強に進出したら…。また顔をくしゃくしゃにして、泣くんやろうなあ。【益子浩一】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「We Love Sports」)