市民スイマーが日の丸を目指す。競泳の甲斐耕輔(25=ルスツリゾート)が、日本選手権(4月2日~、東京辰巳国際水泳場)に出場する。今春で社会人4年目。留寿都村の勤務先で週5日の業務に従事する傍ら、市民プールで練習を続け自己記録を更新し続けている。100メートル自由形のタイム49秒45は、18年度日本ランク7位。世界選手権の代表選考を兼ねる舞台で、日本代表をつかみ取る。

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4度目の挑戦となる日本最高峰の舞台に、甲斐はこれまで以上の覚悟を持って臨む。「(目標は)日本代表というよりも、過去の自分に勝ちたい。(100メートル自由形で)48秒台を視野に入れたい」。昨年の日本選手権決勝で48秒台を記録したのは3人のみ。自己記録を更新することは、結果的に日本代表にもつながる。

独自の道を歩む。トップ選手では異例の会社勤め。留寿都村のルスツリゾートで日勤業務をしながら競技を続ける。練習は平日1時間程度。伊達、札幌、ニセコなど往復2~3時間かけて通う市民プールが拠点だ。「最初はよく『選手なの?』と声をかけられたけど、今は『また来たな』ぐらいに思われている」。指導者不在で恵まれた練習環境ではないが、記録を伸ばし続け、昨季は100メートル自由形で18年度日本ランク7位の49秒45をマークした。

44人中41位。大麻高3年で出場した全国総体100メートル自由形の順位だ。6人の五輪選手を輩出した名門・山梨学院大への進学が転機となった。当初は競泳部入部条件の設定タイムをクリアできず“仮入部”だった。「本当にきつくて泣きそうになりながらやった。記録はどんどん伸びました」。ハイレベルな練習で急成長し部員に昇格、4年連続で日本学生選手権に出場した。引退試合と位置づけた大学4年2月の大会で、初めて日本選手権標準記録を突破し現役続行を決めた。

昨年の日本選手権は17位に沈んだ。日本代表の塩浦慎理(27=イトマン東進)に「またがんばろうな」とゲキをとばされた。「仕事でも結果がすべて。出るだけで終わりたくない」。北海道勢で48秒台を記録したのは、北京五輪400メートルメドレーリレー銅メダルの佐藤久佳だけ。「偉大な先輩の記録を超えていきたい」。過去の自分を超えた先に、世界が見えてくる。【浅水友輝】

◆甲斐耕輔(かい・こうすけ)1994年(平6)1月13日、江別市生まれ。江別中央小2年で競技を始める。江別中央中3年の全道中学で50メートル自由形18位、同100メートルが21位。大麻高を卒業後、山梨学院大に一般入試で入学した。社会人では100メートル自由形で昨年の国体3位、日本社会人選手権2位。名前が北島康介、萩野公介と同じ「こうすけ」でお気に入りだが、周囲からは「かい」と呼ばれてしまう。映画「私の男」の演技を見てから女優二階堂ふみのファン。180センチ、73キロ。家族は両親と兄。

◆甲斐は北海道の魅力を伝えたいと、大学卒業後の16年にルスツリゾートに入社し、団体営業部の団体・教育旅行グループで働く。勤務時間は午前9時~午後6時で、ほかの従業員と同じく繁忙期には残業もある。業務は小中校生の修学旅行のプラン、受け入れ時の準備を担当している。会社側も大会出場時の有給休暇取得や、ウェブサイトで甲斐の活躍を掲載するなどサポートしている。「職場には感謝しています」と甲斐。「アクティビティ体験や北海道らしさを一番体験していただけるホテルと自信を持って言えます」と営業マンとして会社のPRも忘れなかった。

◆異色アスリート 陸上長距離では4月にプロ転向する川内優輝が、埼玉県職員で「公務員ランナー」として活躍してきた。またロンドン五輪マラソン代表の藤原新は、代表選考となった12年東京マラソン当時はフリーの立場で「無職ランナー」として話題になった。フェンシングで五輪3大会出場の太田雄貴も銀メダルを獲得した北京大会は無職で、「ニート剣士」として注目を浴びた。