五輪個人総合2連覇の内村航平(32=ジョイカル)が種目別の鉄棒で14・300点をマークした。

冒頭のH難度「ブレトシュナイダー」はバーに近づきながら何とか決め、倒立姿勢などにも乱れがある演技。「本当に意地をみせたというか。どうなってでも、最後の最後まで落ちないでやり切るのが演技として出せたかなというだけです」と自己評価は辛かったが、演技でない場面でもスタンドを沸かせた。

全選手の演技が終わった後、おもむろに手にしたのは日本代表のTシャツ。振りかぶると客席に向かって放り投げた。「いま代表でもらっているTシャツを余分にもらえてあった。使えるな、サインを書いて客席に投げ入れるということをやったら面白いんじゃないか」と計画していたという。

同時に、込めたのは感謝の気持ち。「生まれ故郷でもあるし、有観客だし、そういったことはしっかりやらないと」とファンサービスを強く意識した。「勝手なことをするの僕くらいしかいないかな。突拍子もないことを(笑い)」と笑顔で振り返った。

大会は新型コロナウイルスのワクチン接種や検査の陰性の証明を活用し、利用可能な客席数の上限まで観客を入れる政府の技術実証が行われている。久々に会場で応援してくれるファンの姿が、この上なくうれしかった。演技自体には納得できなかったが、「もう、これだよなという思い。シンプルにこれが試合だなという感じがあった。今回は生まれ故郷でもあり、拍手に温かみをすごく感じたし、やっと、本物の世界大会になったなという感じはありました」と高揚していた。そして、「これだけありがたいことだったんだな。実際にやってみて感じました。ぶっちゃけ、それだけでよかった」と気持ちが満ちた。

決勝は24日に行われる。Tシャツ投げについては、「これは僕が火付け役になって明日以降(他の選手も)やるかも。まねしてたら僕のパクリじゃんと」と冗談交じりに話し、「ちなみにTシャツはまだまだ用意してます」とにやり。演技でも、演技以外でも、感謝の思いを込めて戦い抜く。