柔道の21年東京オリンピック(五輪)金メダリスト兄妹、男子66キロ級の阿部一二三(25)と女子52キロ級の詩(22=ともにパーク24)が、来年7月開幕のパリ五輪代表に内定した。
全日本柔道連盟(全柔連)が29日、オンラインで強化委員会を開き、男子日本代表の鈴木桂治監督(42)と女子の増地克之監督(52)が候補者を推薦。出席者の3分の1を超えるような反対意見が出なかったことから、決を採る前段階で「パリ手形」が与えられた。特に阿部兄妹の評価は高く満場一致だった。
女子48キロ級で世界選手権3連覇中の角田夏実(30=SBC湘南美容クリニック)と、先月の世界選手権(ドーハ)で初優勝した70キロ級の新添左季(26=自衛隊)も念願の五輪代表に初めて選ばれた。
五輪13カ月前の内定は柔道史上最速。これまでは東京大会8カ月前の素根輝(22=パーク24)が最も速かった。
大きな選考材料となったのは、直近の世界選手権。男子66キロ級では阿部が丸山城志郎(ミキハウス)を決勝で破り、直接対決5連勝として2連覇した。鈴木監督も帰国時に「城志郎には酷だが、1位と2位だからこそ差があるのかなと。阿部を推薦しない理由がない」と、今回の強化委に諮ることを示唆していた。
この日の会見でも「柔道関係者以外にも知られる、伝説に残る2人だが、日本代表が求めるものは強さ、勝利。心を鬼にして決めた」。その後も丸山をたたえる言葉をまじえつつ、前回はワンマッチを制し全14階級で最後の切符を手にした一二三に、今回は男子唯一の内定を最速で出した。
全柔連の規定では、同階級の他選手と明らかな差がついたと判断された場合、強化委員会を経て五輪代表を早期内定できる。「世界選手権の優勝」と「2番手以下との明確な差」という推薦条件下、男子は一二三1人だけが諮られ、出席した委員からも異論は出なかった。
増地監督も3連覇の角田と2連覇の詩について、強化委を前に「(2番手以下との)差に大きな開きがある」と推薦する意向を隠せず。初優勝の新添に関しても「(内定を)出してもらえたら」と口にしていた。
会議内でも、阿部と志々目愛(SBC湘南美容クリニック)および、角田と古賀若菜(山梨学院大)の間に大きな差があることが理由として挙げられた。終了後の会見では、あらためて増地監督が「(他選手が)今後の大会で全勝しても追い抜けない」と現状を説明し、金野潤強化委員長も「逆転不可能」との断言で、女子内定3選手の力が抜けていることを強調した。
この制度は自国開催の東京五輪を前に整備された。かつては大会直前まで行われていた代表争いの心身の疲弊や、負傷のリスクを減らし、本番に向けて十分な準備期間を確保する狙いがある。結果、東京大会では史上最多の金メダル9個を含む12個のメダル(全14階級)を獲得した。
科学的な分析でも、早期内定者の五輪と18年以降の世界選手権の金メダル獲得率が84%に上り、選手や指導者からも好評だった。五輪シード権の確保も見据えて強化を加速させるべく、全柔連は今年3月の理事会で、早ければ6月…本番の1年1カ月前にパリ切符が届く選手を決められるよう「強化システムに関する規程」を改定していた。
その後、世界選手権が行われ、今月23~25日のグランドスラム(GS)ウランバートル大会も終えた段階で、内定に関する第1回の強化委が開かれた。モンゴルには各階級2番手以下の立場の選手が派遣され、女子70キロ級で田中志歩(JR東日本)が、同78キロ超級では冨田若春(コマツ)が優勝した。
結果を受け、東京五輪女王の素根は審議が見送られた。冨田が国内外3連勝中と好調で「明らかな差がついた」とまで判断されず「もう1試合、が丁寧な選考」(増地監督)となった。
一方の新添は、田中が今後の主要2大会で2連勝したとしても「逆転できない」と評価されたことで、初めて夢舞台に立つ権利をつかんだ。内定した4選手は30日に喜びとパリ五輪に向けた抱負を語る。
今回、内定を得られなかった階級のパリ五輪代表は8月のマスターズ大会(ブダペスト)や12月のGS東京大会(東京体育館)の成績を総合的に勘案し、大会後に適宜開催される強化委で都度検討される。GS東京までに全14階級の内定選手が出そろう。【木下淳】


