F1日本GP過去の歴史

【1989年10月23日付本紙より】

セナ、プロストと接触! ナニーニ初優勝!

 ◇10月22日◇三重・鈴鹿サーキット(1周5.85943キロ)◇決勝53周◇出走26台◇観衆13万2000人◇曇り

 最初にチェッカー旗を受けたアイルトン・セナ(29=ブラジル)が、ショートカット(近道)の違反で失格と裁定され、ベネトン・チームのアレッサンドロ・ナニーニ(30=イタリア)がグランプリ初優勝を飾った。セナは48周目に、マクラーレン・ホンダの同僚プロスト(34=フランス)を抜こうとして接触事故を起こし、再スタートの際に違反した。プロストはリタイアしたが、ポイント差で3年ぶり3度目の年間王座を確定した。

再スタートで近道

 「リタイアなんて、冗談じゃない。オレは走るんだ」。コックピットの中のセナは、両手を振りかざして、車を片付けようとするコース整備員たちの動きを制止した。ゴールまで残り5周となった48周目。トップを走るプロストを、シケイン入り口の内側から強引に抜きかかった。2台は激しく接触、そのまま止まってしまった。プロストは、すぐにメルメットを脱いでマシンを降りた。しかし、そこでやめたら総合優勝をプロストに渡すことになるセナはあきらめなかった。

 前方のウィングが取れかかったまま、セナは再び動き出した。約1分のストップで、首位はベネトンのナニーニと入れ替わっていた。ハプニングはこの時起きた。本来のシケインへの進行方向から外れたセナは、コースを近道する形で横切って戦いに復帰した。レースの安全性が考慮される以外は、原則として規則違反となる行為だった。

 1周走る前に、ウイングはなくなってしまった。ピットに戻り、新しい物に付け替えて49周目に再スタート。ナニーニとの差は、7秒以上も離れていた。コースの周りには、13万人の観衆が総立ちでブラジル国旗を振り、セナを応援する。絶望が奇跡に変わった。残りわずか1周しかない52周目、ついに首位を奪い栄光のチェッカーフラッグを受けた。勝利へのあくなき執念は、F1史上でも類を見ない最高のドラマを生んだかに見えた。

 表彰式は約20分遅れて始まった。表彰台に上がった3人の中に、セナの姿はなかった。やはりプロストと接触後のコースのショートカット(近道)が、規則違反と取られ失格。ずっと3位を走っていたナニーニがセナとプロスト共倒れの間げきを縫って優勝をさらった。ナニーニは「ウイングがなくなっているセナが見えたが、それでもセナは速かった。この優勝はセナにささげたい」と、初の優勝に唇を震わせながら話した。

 セナの失格で、自動的にプロストの3年ぶり3度目の総合優勝も決まった。ずっとセナの影におびえていた王者はリタイアに1度は腹を立てたが、「3度目のタイトルは理論的に当然の帰結」と、ホッとしたように話した。敗れはしたが、セナの熱い走りはプロストとの世代交代を鮮烈にファンの目に焼き付けた。【桝田】

 ◆アレッサンドロ・ナニーニ 1959年7月7日、イタリア・シエナ生まれの30歳。F1デビューは、86年ブラジルGPで、これまで最高は今季第2戦サンマリノGPの3位。実家は2軒の支店を持つケーキ屋さんで、妹は歌手。

 ◆セナの話「(失格は)ばかげた事態で、スポーツマン精神から言ってもおかしい。結果は暫定と見なしたい。あそこにいるべきではないヤツ(プロスト)が、ドアを閉ざした(コースをあけなかった)ための事故だった(チーム側も失格処分に対して提訴。早ければ26日、パリの国際自動車連盟の会議で審議される)」。


中嶋無念のリタイア

 中嶋は「6位入賞を狙った」があと12周を残してリタイア。「タイヤの空気圧が前後バラバラで苦しかった。結局はオーバーヒートでエンジンが止まった」。得点は依然ゼロだが、12位から出て一時は10位に上がる積極的なレースで、「ラストの豪州(11月5日)で頑張ります」と、明るい表情だった。


王者にプロの魂見た!

後藤新弥のグランプリ・ビート

 二人が接触するのを、シケインの土手で見た。すぐにマシンを降りたプロストは、「イッツ・オーバー(終わった)」。怒りでメルメットを脱いだ顔はそう白だった。

 しかし、結果的には1985,86年に続いて3度目の総合チャンピオンの座を、その一瞬に決めたこととなる。フェラーリへの来季移籍を自ら発表したため、中盤からホンダ内部では四面楚(そ)歌だった。実力にも、若いセナに抜かれたことを、自分が一番良く知っていた。「泥沼の年だった。とても今は喜べない」と苦い顔をピットで見せたが、苦境の中で栄光を勝ち取った事実は、自信の肥料になる。

 「フェラーリの車はホンダより劣る。劣る車でホンダに挑戦する来年は、スリリングだ」と言った時は、少年のような輝きをひとみに見せた。「レース前、オレはコースを譲らないとセナに宣言したんだ。ぶつけたのはセナ。(失格に)同情しない」と、プロの目でにらみつけた。握手を拒否したのは、ひるんだセナの方。好きにはなれぬが、プロストはすごいヤツだ。 (編集委員・後藤新弥)


順位 ドライバー チーム・エンジン タイヤ タイム
A・ナニーニ ベネトン・フォード GY 1時間35分06秒277
R・パトレーゼ ウイリアムズ・ルノー GY 1時間35分18秒181
T・ブーツェン ウイリアムズ・ルノー GY 1時間35分19秒723
N・ピケ ロータス・ジャッド GY 1時間35分50秒502
M・ブランドル ブラバム・ジャッド PI 1周遅れ
D・ワーウィック アロウズ・フォード GY 1周遅れ
M・グージェルミン レイトンハウス・ジャッド GY 1周遅れ
E・チーパー アロウズ・フォード GY 1周遅れ
A・カフィ ダラーラ・フォード PI 1周遅れ
10 A・デ・チェザリス ダラーラ・フォード PI 2周遅れ
  A・プロスト マクラーレン・ホンダ GY 47周目リタイア
  S・モデナ ブラバム・ジャッド PI 47周目リタイア
  G・ニルソン ロータス・フォード GY 64周目リタイア
  N・マンセル フェラーリ GY 44周目リタイア
  中嶋 悟 ロータス・ジャッド GY 42周目リタイア
  J・アレジー ティレル・フォード GY 38周目リタイア
  P・アリオー ローラ・ランボルギーニ GY 37周目リタイア
  G・ベルガー フェラーリ GY 35周目リタイア
  E・ピロ ベネトン・フォード GY 34周目リタイア
  O・グルイヤール リジェ・フォード GY 32周目リタイア
  O・グルイヤール リジェ・フォード GY 32周目リタイア
  I・カペリ レイトンハウス・ジャッド GY 28周目リタイア
  N・ラニーニ オゼッラ・フォード PI 22周目リタイア
  J・パーマー ティレル・フォード GY 21周目リタイア
  B・シュナイダー ザクスピード・ヤマハ PI 2周目リタイア
  P・バリラ ミナルディ・フォード PI 1周目リタイア
  L・ペレス・サラ ミナルディ・フォード PI 1周目リタイア
  A・セナ マクラーレン・ホンダ GY 失格
1位の平均時速は195.921キロ
最速ラップはプロストの1分43秒506(43周目)平均時速は203.794キロ
タイヤはGY=グッドイヤー、PI=ピレリ。


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