北京オリンピックではさまざまな競技を取材してきたが、もっぱら終盤はカーリングの現場にいる。そして、その文化に気持ちが動かされることが多い。

特に選手、チーム同士の絆だ。日本が初の決勝進出を決めた18日の準決勝スイス戦。8ー6の勝利が確定するスキップ藤沢五月のストーンがハウスの中心にゆっくりと止まっても、メンバーは歓喜をしない。すぐにスイスのメンバーをそれぞれが握手をしてから、4人で泣き笑いの円陣を作った。

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しっかり、相手にリスペクトを伝えるように握手をしてから喜ぶ。取材した試合ではいつもそうだった。逆に負けたときでもふてくされるようなチームを見たことがない。スイスのコーチはサード吉田知那美に向かってサムアップポーズでたたえ、「(スイスは)ベストフレンド」という吉田知も親指を立てて応えた。

ラグビーのノーサイドではないが、試合が終われば勝っても負けても友情をかわす。実際に、本場カナダではカーリング場にバーが併設されている所が多く、勝者が敗者にごちそうする「バータイム」の文化があるという。試合中に「何か飲みたいものある? 」と相手に聞くひと言は定番らしい。

カナダと言えば、1次リーグ最終戦、日本がスイスに敗れながら他国の結果で準決勝進出を決めた17日夜にも、素晴らしい場面に出合えた。

日本と同じく5勝4敗で並びながら、「ドローショットチャレンジ(DSC)」の差で敗退カナダのスキップ、ジェニファー・ジョーンズ。14年ソチ五輪の金メダリストの47歳のレジェンドは、取材エリアを通り掛かると、インタビューを受けていた藤沢と吉田知を後ろから抱きしめた。約20秒間、何かを伝えると2人の目から涙がこぼれた。

藤沢は翌日、決勝進出を決めた後に振り返ってくれた。「あんな状況の中で本人は悔しいはずで、そういう中でもハグしてくれて、声をかけてくれて。もともと私はジェニファー・ジョーンズはすごく尊敬してて、あらためて大好きだなって思いました」

一方のジョーンズはカナダメディアの取材に「彼女たちはジェットコースターに乗っているような感覚だったでしょう。何かしてあげたかったんです。だからハグをしたり、『一生懸命頑張ったね、おめでとう』と言いたかったんです。私は彼女たちを誇りに思っています」とコメントしている。

そのレジェンドと同じ金メダリストという称号をかけて挑む英国戦。4年前の3位決定戦では日本が僅差で勝った。スキップのミュアヘッドは有利なラストショットを外して負けた。

その事が念頭にあるのだろう。吉田知は言う。

「ミュアヘッド選手はあそこでメダルをとれなかったことで4年間苦しんだ。彼女にしか分からないけれど、次はお互いにメダリストとして戦える。4年間お互いに違う状況の中で頑張り続けたご褒美なのかなと思います」。

その言葉にも、大きな敬意が詰まっていた。【阿部健吾】

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