自身初となる五輪での500メートル挑戦で高木美帆(27=日体大職)が37秒12の自己ベストをたたき出し、銀メダルを獲得した。今大会1500メートルの銀に次ぐ2個目。これで通算5個目のメダルとなり、夏季五輪の柔道で谷亮子に並ぶ日本女子最多となった。18年平昌五輪で金メダルだった小平奈緒(35=相沢病院)は38秒09で17位に終わった。日本勢の冬季五輪史上初となる連覇はならなかった。エリン・ジャクソン(29=米国)が金メダルに輝いた。

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努力の天才が本職ではない500メートルで銀メダルをつかんだ。日の丸を背負うと、人柄がにじみ出る。観客席に深々と頭を下げた。「渾身(こんしん)のレース」と喜びをかみしめた。

W杯はBクラスの滑走だったためこの日は15組中、序盤の4組目で滑走。いきなり37秒12という好タイムをたたき出し「違う人のタイムかと思った」ほど。会場もどよめいた。

最終組が終わるまで自転車型トレーニング器具でクールダウンしながら結果を待つ。14組のエリン・ジャクソンが0秒08差で1位に躍り出ると、少し悔しそうにマスク越しにニコッと笑った。

レースは完璧だった。リラックスした表情でスタートラインに立つと、最初の100メートルを10秒41で入る。中長距離で培った後半の伸びが売り。残り400メートルをジャクソンと同じ26秒71で上がり、自己ベストを0秒10更新した。

500メートルを含めた5種目への出場は92年アルベールビル五輪の橋本聖子(現東京五輪・パラリンピック組織委会長)以来となる。

多種目挑戦を始めた当初、周囲から「無理はするな」と忠告を受けた。ヨハン・デビッド・ヘッドコーチからも当初は種目を絞る方針を示された。それでもオールラウンダーにこだわった。短、中、長距離全てに挑戦する理由は「スケートを速く滑るため」と単純だった。

高木美に「多種目のススメ」を説いたのは元祖オールラウンダーの橋本氏だった。10年バンクーバー五輪に中学3年で出場した際、「一番好きな種目は?」と聞くと「1500メートル」と返ってきた。橋本氏は「1500メートルを極めるには500メートルのスピードと長距離の持久力、両方を兼ね備えて1500メートルは確立するんだよ」と、自身の経験から助言した。

聞く力、吸収力も人並み外れている。前日の男子500メートルで8位入賞となった村上右磨は「500メートルを速くなるにはどうしたらいいの」と聞かれたという。村上は「探究心がすごい」と舌を巻く。

この日、コロナから復帰したヨハンコーチの言葉にも救われる。「肩に力が入ってるぞ」。高木美は「500メートルの滑りを意識しすぎて動きが固まっていた。言われて無理ない滑りができた」と振り返った。

500メートル挑戦に迷ったことも。「最後まで挑戦して良かった。この銀は誇りたい」。やらずに後悔せず、挑戦して最高の結果にたどり着いた。【三須一紀】