車いすテニス界のシンデレラが、選手生活と受験勉強の両立の末に20年東京パラリンピック出場にチャレンジする。船水梓緒里(しおり、17=千葉・麗沢高)はテニス経験なし、競技歴約3年で現在、女子シングルス世界ランキング27位。日本パラリンピアンズ協会(PAJ)の奨学金制度1期生にも選ばれたニューパワーで、今月行われたジャパンオープンでも世界4位の強豪に善戦した。パラスポーツ界の未来のリーダーとしても期待されるだけに、“文武二刀流”を貫いて2年後の日本代表を目指す。

 

 船水はとても悩ましいシーズンを戦っている。プレーヤーとしてランキングを少しでも上げたい。ただ将来を考えれば、大学に進んで学びたいこともたくさんあるし、人としてももっと大きく成長したい。「国枝さんや上地さんのように、世界のトップを維持し続ける自分の姿がまだ想像できない。だから進学してしっかり勉強もしたい。でも、東京には出たいです」。

 いずれはプロとして戦いたい思いもある。ただ、自信は持てない。無理もない。車いすテニスを始めて3年ほど。しかも、練習は毎朝登校前の1時間半。それでも世界27位、ジュニアでは世界3位に躍進してきたシンデレラは、自分自身にまだ半信半疑でもある。

 中学1年生の夏、海外へ家族旅行した際、初めて体験したサーフィンで脊髄を損傷した。車いすに乗るようになった自分を受け入れられず、障がい者スポーツにも抵抗があった。しかし、リハビリ中に家族に連れられて国枝慎吾の試合を観戦し、プレーに圧倒された。「堂々としていて障がい者という感じがしなかった。私にもできるかな、と」。

 国枝が拠点とする千葉県柏市の吉田記念テニス研修センターに入会。中学のソフトボール部活動を終えた3年生の秋から練習に力を入れた。けがをする前は左利きの強肩強打の一塁手。テニスでは強烈なサーブが武器になった。ランキング上昇とともに注目度も高まり、PAJの「ネクストパラアスリートスカラーシップ」18年1期生にも選出。パラリンピック出場はもちろん、パラスポーツ界の将来的なリーダーとしても期待されている。

 ライバルたちは今後、20年東京へ試合出場を増やし、ランキング上昇を狙ってくる。船水は逆行するように8月までに欧州の3試合を予定するだけで、それ以降は受験に専念する。ただ、あくまでポジティブ思考だ。「受験中も練習はできる。しっかり基礎を固めてサーブ以外のウェポンを増やしたい。試合に復帰した時、確実に勝てるように」。

 年内のできるだけ早い時期に受験という難敵に勝って、ツアーに復帰する。東京の国・地域別出場枠は最大4。世界1位・上地結衣は決定的で、現状、日本で5番手の船水には厳しい状況だが、可能性がある限りチャレンジする。「国枝さんは私のテニスを認めてくれていないんです。学校へ行ってしっかり勉強しろとしか言われないから」。そう言って笑う船水に固い決意が感じられた。【小堀泰男】

 

 ◆船水梓緒里(ふなみず・しおり)2000年(平12)11月8日生まれ。千葉県我孫子市在住。同市立久寺家中時代はソフトボール部で、けがをした後も活動を続けた。3年生の秋から本格的に車いすテニスを始め、麗沢高1年生の16年から国際テニス連盟(ITF)のツアーに参戦。若手が集うフューチャーズシリーズやその上のITF3シリーズではダブルスを含めて優勝経験がある。今年1月世界ジュニアマスターズ(ランク上位4人が出場)で準優勝。家族は両親と妹。

 

 ◆20年東京パラへの道 女子シングルスは32人で争われ、国・地域別の最大出場枠は4。日本は4枠が想定されるが確定はしていない。(1)20年6月8日時点の世界ランキングで22位以内(2)17~20年の4年間に世界国別対抗戦の代表に2度選出、の条件を満たせば出場資格を得られるが、日本選手の中でランキング上位4位以内に入る必要がある。また、10月のジャカルタ・アジアパラ優勝者は出場資格を獲得。そのほか8人程度の推薦出場枠が用意される。船水は17年の世界国別対抗戦代表、アジアパラには出場しない。