92年バルセロナ五輪柔道女子52キロ級銀メダルで、全日本柔道連盟(全柔連)評議員の溝口紀子氏(49)が4日、日刊スポーツの取材に応じ、東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長(83)の問題発言を巡る謝罪会見について「配慮が欠けている」と指摘した。

以下、主な一問一答。

-この日の森氏の謝罪会見を見て

溝口氏 発言を撤回されたことは良かったです。とはいえ、記者に「マスクを外せ」などと逆ギレ気味の威圧的な態度は、五輪開催の中止や延期の声が8割を超える中で、国民に寄り添う態度にみえず、正直残念な印象を持ちました。さらに、「男性、女性、両性」発言は性的マイノリティー(性的少数者)の方に対して配慮が欠けた、屈辱、差別的な発言だと思いました。セクシュアリティー(性の在り方)が多様化する中で、見識が足りてないのではと思いました。オリンピアンにもLGBTの選手や関係者がいます。その人たちにとって両性でくくられることは、屈辱的な思いをしたのではないでしょうか。五輪・パラリンピックのホスト国の顔になる人なので、大会開催そのものに影響を及ぼします。無意識に差別発言していることさえ気づくことのできない絶望感も感じました。また、大会組織委員会やJOC組織自体がしっかり「相いれない」との声明をあげないと、国内外にオリンピズムを軽視している、「差別にNO」と言えない、自浄能力のない組織と思われてしまいます。

-3日の「女性がたくさんいる理事会は時間がかかる」発言に関して

溝口氏 女性理事のせいで時間がかかるのではなく、議論が活発でよい会議が行われているではないでしょうか。むしろ、女性理事の問題でなく、会議の出席者の発言をバランスよくまとめられない会議進行役の手腕によるものだと思います。

-13年の全柔連の女子代表暴力問題などを受け、各競技団体で積極的な女性登用が始まった。女性役員が増えることの影響は

溝口氏 かつての全柔連はこれまで男性中心のトップの「イエスマン」で構成され、閉鎖的な“内輪のルール”のみによって運営されていました。トップにあらがうことができず、選手は政治に翻弄(ほんろう)されてきました。また、全柔連では相次ぐ子どもたちの柔道事故や体罰問題が放置されてきました。法令順守よりも、組織内の慣習や人間関係への配慮が優先され、柔道事故の対応や選手選考、公金不正などガバナンスに問題があると指摘されました。その後、宗岡正二前会長のもと改革が行われ、女性や外部理事、評議員が登用されました。私もその1人です。とはいえ、女性の割合を増やすだけでは、活発な議論や自助能力は高まりません。理事や役員も就任後には、研修を受けることでガバナンス能力の研さんに励むことも組織改革として重要だと思います。男女関係なく、外部有識者などイエスマンにならず、知識、経験、見解を持った理事を登用することです。議論を活性化、多様な意見を引き出し、偏重化しないファシリテーター(促進者)となるべきトップの存在が重要です。「沈黙は金」では、自浄能力は高まりません。

-東京五輪・パラリンピックの開催が不透明な中、失言した森氏へ期待すること

溝口氏 コロナ禍で五輪反対の人の声も雑音とは思わず、真摯(しんし)に向き合い、傾聴することが大切だと思います。そのことが五輪への理解を深め、オリンピックの価値を高めることにつながります。これを機に森氏には五輪・パラリンピック組織委員会のトップとして、スポーツ界のジェンダーバイアス(性的偏見)を解消し、オリンピズムの実現、スポーツガバナンスの模範となるべく、発信力を発揮してほしいと思います。