【追憶 江川卓〈2〉】早すぎる仲間の「バツ印」3度目完全を逃し、怪物は溝を悟った
夏が来れば思い出す、江川卓の群像劇です。3年連続の完全試合を「振り逃げ」で逃した怪物。作新のチームメートを取材すると、ずばぬけた力量によって生じた不協和音が透けてきます。全15回。(2017年4月5日掲載。所属、年齢などは当時。文中敬称略)
高校野球
★当事者たちの声
江川の作新時代を取材するうち、この「振り逃げ」のシーンに固執したい衝動に駆られた。この時江川が置かれていたポジションが確認できると思ったからだ。選手の声を集めた。
亀岡偉民(作新3年・捕手)ワンバウンドをちょっとそらした。送球しようとしたら一塁手がバツを出して、投げられなかった。投げていればアウトのタイミングだった。
佐藤章雄(氏家2年・一塁手=振り逃げで生きる) 空振りしたのは外角低めカーブ。走りながら一塁手がバッテンしたのが見えた。ベースの前で一塁手を追い越した。セーフなら、ちょっとカッコ悪いと思いながら走ったから覚えてる。
加藤勲(氏家3年・投手=次打者席で待機) 私の場所から見て(亀岡は一塁へ)送球したと思う。どんな送球だったか、は覚えていない。
今回、作新学院の一塁手、鈴木秀男には取材に応じてもらえなかった。
ただ、昨年1月から3月にかけて朝日新聞に連載された「あの夏 1973年、銚子商×作新学院」の中で、このプレーを振り返っている。
捕手から送球されながらタッチにいかなかったという状況が記述され、そのわけについて「送球がそれたからだよ」と。
江川の印象は、こうだ。
「(亀岡が)そらしたといっても、後方にチョロチョロ程度。鈴木(秀)がバツを出して(一塁の)前に出て(送球を)捕った。右打者だったし、塁に着いていればアウトのタイミングだったと思う」
各自の記憶の断片をつなぐと、こうなるだろうか。
1955年(昭30)、和歌山県生まれ。早大卒。
83年日刊スポーツ新聞社入社。巨人担当で江川番を務め、その後横浜大洋(現DeNA)、遊軍を経て再び巨人担当、野球デスクと15年以上プロ野球を取材。20年に退社し、現在はフリー。
自慢は87年王巨人の初V、94年長嶋巨人の「10・8最終決戦」を番記者として体験したこと。江川卓著「たかが江川 されど江川」(新潮社刊)で共著の1人。
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