【追憶 江川卓〈14〉】準決勝VS広商は雨順延 ソファでうたた寝、目が覚めると…

夏が来れば思い出す、江川卓の群像劇。本人がたっぷり語った15回連載を送ります。1973年(昭48)センバツ準決勝、広島商戦の悔恨をじっくりと。(2017年4月18日掲載。所属、年齢などは当時。文中敬称略)

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★首に激痛 寝違え

満を持しての甲子園。センバツも、夏も、不思議と雨につきまとわれ、雨を味方につけることはできなかった。

「桶狭間の合戦、だよ」

江川は、やっと出場できた「夢の場所」での登板について、戦国時代の史実を引き合いに出した。

「少数の織田軍が、今川軍の大軍を倒すんだよね。大雨と強風の音に紛れて“奇襲”をかけた…」

◆桶狭間の戦い 1560年6月12日(永禄3年5月19日)、尾張国(現愛知県)桶狭間で行われた合戦。2万5000の大軍を率いた今川義元軍と、わずか2000~3000人の兵力の織田信長軍の間で行われた。織田軍は、突然降り出した、視界をさえぎる豪雨(ひょうだったといわれる)に紛れて兵を進め、今川軍の本隊に奇襲をかけて勝利した。

そして続けた。

「雨って、その後の人生を左右するんだよ。そのとき負けても、後の人生に生かせばいい。逆に、雨で自分に出番が回って、好転するときもある」

センバツの広島商との準決勝。日程通りなら4月4日。それが、雨で翌5日に順延された。つかの間の猶予が与えられたのだが、そこに“油断”が潜んでいた。

1955年(昭30)、和歌山県生まれ。早大卒。
83年日刊スポーツ新聞社入社。巨人担当で江川番を務め、その後横浜大洋(現DeNA)、遊軍を経て再び巨人担当、野球デスクと15年以上プロ野球を取材。20年に退社し、現在はフリー。
自慢は87年王巨人の初V、94年長嶋巨人の「10・8最終決戦」を番記者として体験したこと。江川卓著「たかが江川 されど江川」(新潮社刊)で共著の1人。