【追憶 江川卓〈5〉】竹バットで柵越え、捕手は慢性血行障害…怪物の正体が現れた
夏が来れば思い出す、江川卓の群像劇。本人がたっぷり語った15回連載を送ります。作新学院へ進学を決めた怪物が、力を解き放ちます。(2017年4月8日掲載。所属、年齢などは当時。文中敬称略)
高校野球
★「1年坊主、どこまで飛ばすんだ」
江川とともに入部した作新学院野球部の新入部員は、なんと140人。構成要員では140分の1も、存在感なら紛うことなく、江川が140人中、断トツだった。
上級生の度肝を抜いた。まずは、その打撃力だった。1年部員は入部当初体力づくりが優先され、通常許可されないフリー打撃に、江川が指名された。
練習用に使われた「竹バット」(竹板を張り合わせた合成バット。芯に当てても飛距離が出ず、手がしびれる)で、なんと、グラウンドを囲む地元特産「大谷石(おおやいし)」のフェンスを、軽々と越える当たりを連発した。
野球部寮で江川と同部屋、3年三塁手だった大橋弘幸は「この1年坊主、どこまで飛ばすんだってくらい、飛ばしてた」と目をひんむいた。その先輩は、夜に、さらに驚かされる。
★遠投の速さと勢い
床を並べて寝入る前、野球談議をしていた。「打者の習性を覚えれば、投球に役立つよ」と助言すると、「僕は打者を“5球”で仕留めたい」と返した。
1球目は真ん中高め直球、2球目は内角低めカーブで腰をひかせ…。回数、スコア、アウトカウント、打者の左右、走者の有無にコースと球種をからませボールカウントを想定し、5球目に勝負球。「一番自信のある真ん中高め直球」を放るのだ、という。
「ほんとに中学を出たばかりなのか!?」。先輩は恐れをなした。
むろん、本職の投球練習でも、「怪物」はその正体を惜しげもなくさらした。
1955年(昭30)、和歌山県生まれ。早大卒。
83年日刊スポーツ新聞社入社。巨人担当で江川番を務め、その後横浜大洋(現DeNA)、遊軍を経て再び巨人担当、野球デスクと15年以上プロ野球を取材。20年に退社し、現在はフリー。
自慢は87年王巨人の初V、94年長嶋巨人の「10・8最終決戦」を番記者として体験したこと。江川卓著「たかが江川 されど江川」(新潮社刊)で共著の1人。
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