【追憶 江川卓〈6〉】蛍光灯もろとも布団かぶって猛勉強 運動部初の「Aダッシュ」
夏が来れば思い出す、江川卓の群像劇。本人がたっぷり語った15回連載を送ります。文武両道を貫いた怪物の日常をつづった第6回。(2017年4月9日掲載。所属、年齢などは当時。文中敬称略)
高校野球
★落雷で昏倒…練習は続く
立松和平の小説「遠雷」にあるように、その舞台、宇都宮は、雷が多い。
夏の夕刻、沛然(はいぜん)と雨が降り出し、漆黒の空のあちこちに閃光(せんこう)が走る。
練習中の作新学院グラウンドにも、それは容赦なくとどろいた。江川らが練習中、1度グラウンドのセンター後方に、ごう音とともに雷が落ちた。
同時に外野手が1人、昏倒(こんとう)した。
一瞬、選手全員が固まる。ややあって、外野手は体を震わせながらも、ゆっくり立ち上がった。
大事には至らなかったが、そんなアクシデントがあっても、練習は中断されることなく続けられた。
★戸祭山まで往復10キロ
「練習嫌い、走らないってレッテル貼られたけど、結構人が見てないところで走った」と江川は言う。努力しているところは人には見せない。そのポリシーは一貫していた。
江川が入部したころ、野球部は部長・山本理(16年11月19日、83歳で死去)、監督・渡辺富夫のコンビだった。江川はこの首脳陣に、徹底的に走り込まされた。
学校から5キロほど北東にある戸祭山(通称水道山)までの往復ランニング。標高186・3メートルの頂上まで、138段の階段を猛ダッシュで駆け上がった。早朝自由参加で走らされることもあったが、コースの途中に山本理の自宅があり、チェックされていた。
この走り込みが、江川独特の投球フォームの土台となった。小学生時代からのバネと足腰の強さと融合する。
★洗濯係は免除
ランニングが“ムチ”なら、“アメ”も当然用意された。
1955年(昭30)、和歌山県生まれ。早大卒。
83年日刊スポーツ新聞社入社。巨人担当で江川番を務め、その後横浜大洋(現DeNA)、遊軍を経て再び巨人担当、野球デスクと15年以上プロ野球を取材。20年に退社し、現在はフリー。
自慢は87年王巨人の初V、94年長嶋巨人の「10・8最終決戦」を番記者として体験したこと。江川卓著「たかが江川 されど江川」(新潮社刊)で共著の1人。
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