【追憶 江川卓〈3〉】中3で静岡から栃木へ 無数の進路に轍をつける厳格な父
夏が来れば思い出す、江川卓の群像劇。本人がたっぷり語った15回連載を送ります。第3回は怪物のルーツ。ざくざく出てくる逸話と、冷静な本人、両親のコントラスト。(2017年4月6日掲載。所属、年齢などは当時。文中敬称略)
高校野球
★軟球なのに…ミットのひもが1週間で
江川の「甲子園ロード」の出発点に、話を移すことにしよう。作新学院の入学にも紆余(うよ)曲折があったのだ。
江川は中3の新学期前、古河鉱業(現古河機械金属)に勤める父二美夫の転勤に伴い、静岡・佐久間町(現浜松市天竜区)の佐久間中から栃木・小山中に転校。早速野球部の門をたたく。
同中3年捕手の小堀充は、江川が初めて来た春休み中の「その日」を覚えていた。
「『いっしょにやらせてください!』って来た。でっかい体だったから先輩が来たんだと思った」。既にこの時、江川の身長は178センチに達していた。
小堀充が球を受けると、軟球なのにミットのひもが1週間で切れた。
雨が降ると、隣の小山高野球部の仮設屋根付きブルペンを使わせてもらったが、その直球を見た高校生が「スッゲー!! ほんとに中学生かよ」と舌を巻き、並んで投げることを避けた。
★ライバル・金久保孝治
頭角を現した江川は、7月の県内の中体連大会でいきなり優勝、続く8月の県下少年野球大会では準優勝ながら、国本中、黒磯中戦でノーヒットノーランを達成した。
いずれも決勝は、捕手で主砲の金久保孝治が率いる栃木東中が相手だった。2人は度重なる対戦で互いの能力を認め、ライバルとして、仲間として、進路を意識しあう。
金久保孝治は、後に小山に進学。その際、江川の同高進学説が県内に充満した時に「一緒にできれば甲子園にいける!」と胸を躍らせるのだった。
一方で「怪物」が、甲子園を強烈に意識し出したのも、実はこの頃だった。
1955年(昭30)、和歌山県生まれ。早大卒。
83年日刊スポーツ新聞社入社。巨人担当で江川番を務め、その後横浜大洋(現DeNA)、遊軍を経て再び巨人担当、野球デスクと15年以上プロ野球を取材。20年に退社し、現在はフリー。
自慢は87年王巨人の初V、94年長嶋巨人の「10・8最終決戦」を番記者として体験したこと。江川卓著「たかが江川 されど江川」(新潮社刊)で共著の1人。
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