【球審の目】〝ジャスティス・コヤマ〟断言「日本の野球は世界のマナーに反している」

球審の目には「サイン盗み」はどう映っているのか。そもそも、試合中に気付くことはできるのか。高校、大学、社会人の各カテゴリーで合計1000試合以上を裁いてきた小山克仁氏(57=アジア野球連盟審判長)に、マスク越しに見える実態を聞きました。連載第7回。(2019年5月16日掲載。敬称略)

その他野球

★「捕手から言われないと気付かない」

球審を務めた夏の甲子園のある試合で、小山はボールデッド中に捕手から懇願された。

「小山さん、もう勘弁できません。あいつね、ずっと手で教えてるんです」

「えっ、本当かよ?」

インプレー後、二塁走者の怪しい動きを視認。タイムをとって駆け寄り、二塁走者に「手でコースなんて教えるな!」と注意した。

疑惑に上がる、走者からのサイン伝達。球審の視野には入るのか。「基本的には投球に集中しているし、極端な動き以外は捕手から言われないと気付かない」という。

一方で「古典的だけれど、打者が捕手の構えたコースをチラッと見るのはどの審判でもすぐ分かる」。そういうマナー違反を小山は「後ろを見るな!」と一喝してきた。

マナーには厳しく「ジャスティス・コヤマ」と呼ばれることは自覚する。信条はグラウンド・ティーチャー。「学生野球では審判も指導者。試合中のマナーやルールは、私たちに責任がある」と肝に銘じ、21年間の審判人生を送った。

シドニー五輪に派遣されるなど、世界の野球にも造詣が深い。多様な経験をもとに断言する。「日本の野球は世界のマナーに反している」と。

◆小山克仁(こやま・かつひと)1961年(昭36)8月22日生まれ。神奈川・相模原市出身。法政二(神奈川)から法大へ進学。卒業後は海老名市役所勤務の傍ら、高校野球、東京6大学野球などで審判を務めた。現在はアフリカへの野球振興にも尽力している。

★あしき風潮「ルールに書いていないから」

投球間隔が長く試合も長くなる。捕手がショートバウンドを避ける。判定不服のアクションをとる…ある国際親善試合の初回、日本の先頭打者が2球目で捕手を“チラ見”すると、相手国監督は「こんなチームと親善試合はできない!」と選手をベンチに引き揚げさせたという。試合開始直後にもかかわらず、だ。

1980年11月、神奈川県座間市出身。法大卒、2003年入社。
震災後の2012年に「自転車日本一周」企画に挑戦し、結局は東日本一周でゴール。ごく局地的ながら経済効果をもたらした。
2019年にアマ野球担当記者として大船渡・佐々木朗希投手を総移動距離2.5万キロにわたり密着。ご縁あってか2020年から千葉ロッテ担当に。2023年から埼玉西武担当。
日本の全ての景色を目にするのが夢。22年9月時点で全国市区町村到達率97.2%、ならびに同2度以上到達率48.2%で、たまに「るるぶ金子」と呼ばれたりも。