スタンドで見届けた涙声のお立ち台 石井琢朗が9回2死から失策→サヨナラ打/連載8

横浜DeNAベイスターズの25年…四半世紀ぶりの優勝を祈念する企画連載の第8弾は、石井琢朗の涙のお立ち台です。2点リードで迎えた9回表に大魔神こと佐々木主浩が登場。勝利目前のところで、名手・石井琢のまさかのエラーから同点に追い付かれてしまいました。その裏、石井琢はサヨナラ打を放ち、お立ち台でファンに謝罪するという劇的なゲームになりました。

プロ野球

スタンドから見た巨人戦

あのものすごい試合を、私は横浜スタジアムのライトスタンドで見ていました。

1998年7月14日。首位を走る横浜ベイスターズは、3ゲーム差で迫りくる3位巨人との3連戦を迎えました。

大事な試合でしたが、前日まで10泊11日の長期遠征だったため、私は上司から休みを取るよう指示されたのです。

「いや、出勤します。この試合は見逃せません」と直訴したのですが、上司からは「気持ちは分かるが、まだ7月。優勝まで先は長いんだ。休んで体調を整えるのも仕事のうちだぞ」と却下されました。

しかし、自宅にいても落ち着きません。テレビ中継は試合開始から約1時間後で、すべてのプレーを見られません。

「そうだ。チケットを買ってスタンドで見よう」

そう思って横浜スタジアムへ出かけました。ベイスターズファンが集まるライト外野席に入り、ネット裏の記者席とは反対側からグラウンドを見つめました。

1998年の横浜スタジアムには多くのファンが詰めかけた

1998年の横浜スタジアムには多くのファンが詰めかけた

3連勝中の好調ベイスターズは、序盤から得点を重ねました。

1回裏、4番ロバート・ローズの3ランなどで4点を先制。2回にも鈴木尚典のタイムリーで2点を加え、序盤で6-0と大量リードを奪いました。

横浜先発の三浦大輔投手は、巨人打線を封じ込めました。クリーンアップから始まる4回表、3番松井秀喜を二飛、4番清原和博を投ゴロに抑えます。5番高橋由伸に右前打されるも、続く広沢克実を遊ゴロに抑えました。

一方的な展開で4連勝を決めるだろう。5回が終わったら球場を出て、近隣の中華街で食事をして帰ろう。そんなことを考えていました。

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編集委員

飯島智則Tomonori iijima

Kanagawa

1969年(昭44)生まれ。横浜出身。
93年に入社し、プロ野球の横浜(現DeNA)、巨人、大リーグ、NPBなどを担当した。著書「松井秀喜 メジャーにかがやく55番」「イップスは治る!」「イップスの乗り越え方」(企画構成)。
日本イップス協会認定トレーナー、日本スポーツマンシップ協会認定コーチ、スポーツ医学検定2級。流通経大の「ジャーナリスト講座」で学生の指導もしている。