雨の函館で「1人いてまえ」中根仁が3ラン 6月以降では19年ぶり単独首位/連載5

横浜DeNAベイスターズの25年…四半世紀ぶりの優勝を祈念する企画連載の第5弾は、6月以降では19年ぶりとなる首位奪取です。6月20日、雨の函館で、左腕エース野村弘樹の投打に渡る活躍と、この年から加入した中根仁の勝負強いバッティングが光りました。まだ前半戦で、順位を意識する時期ではありません。しかし、結果的に見れば、ここから1度も首位を空け渡さずに優勝するのです。

プロ野球

どしゃぶり…走る野村弘樹

1998年6月20日。北海道・函館は、朝から強い雨が降っていました。

横浜のフロント職員は、球場に到着するなり、主催の広島球団に開催の見込みを聞きにいきました。

「もう少し様子を見るけど、ずっと降り続く予報だから、中止になりそうだって」

そんな情報が届くと、ベンチ裏はすっかりリラックスした雰囲気になりました。

数年に1度の遠征地です。選手と報道陣が、海産物がおいしい店を紹介し合っていました。中止になれば、早い時間から食事に出かけ、ゆっくり函館の夜を楽しめます。

しかし、ただ1人、どしゃぶりの雨の中を走っている選手がいました。先発予定の野村弘樹です。

たっぷりと走り込んだ野村がベンチに戻ると、他の選手が声をかけました。

「弘樹、さすがに今日は無理だって。こんな雨の中で練習をしていたら風邪ひいちゃうぞ」

確かに、6月下旬とはいえ、雨が降る北海道は肌寒い気候でした。

野村は笑顔を見せ、何も言わずにバスタオルで全身の雨を拭いました。そしてグローブとボールを手にすると、再び雨の中へ飛び出していきました。

正式に中止が発表されるまでは、決して気を抜かない。そんな左腕エースの姿を見ているうちに、ベンチ内の雑談が止まりました。すると、誰かが言いました。

「おい、札幌の中日戦は雨で中止になったぞ。今日勝てば、うちは中日に並ぶ首位に上がるぞ」

そんな声が上がった頃から、次第に雨が弱くなっていきます。

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編集委員

飯島智則Tomonori iijima

Kanagawa

1969年(昭44)生まれ。横浜出身。
93年に入社し、プロ野球の横浜(現DeNA)、巨人、大リーグ、NPBなどを担当した。著書「松井秀喜 メジャーにかがやく55番」「イップスは治る!」「イップスの乗り越え方」(企画構成)。
日本イップス協会認定トレーナー、日本スポーツマンシップ協会認定コーチ、スポーツ医学検定2級。流通経大の「ジャーナリスト講座」で学生の指導もしている。