【長崎編】坂の街、祈りの街、変化する街灯り…最高の野球場がたたずむ街/連載〈9〉

旅が好きです。日本の全市区町村の97・2%を踏破済みです。その遍歴は球界関係者に興奮されたり、どん引きされたり。かけ算の世の中、野球×旅。お気楽に不定期で旅します。題して「野球と旅をこじつける」。第9回は昨年12月、長崎県へ小旅行に―。

プロ野球

■フロント横に折り鶴

夜のうちに長崎市内に入ったから、カーテンを開けて飛び込んでくる坂道の景色は、曇天でも楽しい。

スマートフォンを見る。非日常を求めて旅行するのに現実は酷だ。前夜に出稿した記事がこの日、12月19日朝に世に出た。

「FA山川穂高のソフトバンク移籍19日発表へ 何度も振り回され釈然とせず取り残される西武ファン」

埼玉西武ライオンズを1年間、番記者として追った立場として書かねばならない記事だった。でもまさか旅行予定日に山川の移籍会見が行われるとは。何というか、最後の最後まで…ここまでにしておく。

ホテルのフロント横に折り鶴がある。夜中のうちに緑色の鶴を折って入れた。

■「珈琲冨士男」で朝食

少し歩いて「珈琲冨士男」で朝食を。日刊スポーツと同じ1946年創業。遠藤周作「砂の器」にも登場する名店だそう。

ハムサンド、野菜サンド、バナナサンド、チーズサンド、ハムパインサンド…魅惑の品書きが並ぶ。「シナモンシュガー入」との括弧書きにひかれ、チーズサンドにした。

甘塩っぱさが圧縮され、香ばしく焼かされた逸品。なんでこれ、長崎名物じゃないんだろう。

一応、またスマホを見る。朝の記事への反響がとんでもなく大きく、いや、それは職業としては胸を張るべきことなのかもしれないが、SNSを開いただけでじわじわと充電量が減っていくようで、旅先では焦りにつながる。

旅行なのに晴れやか100%になれない。長崎は今日も雨だった、の歌のように雨だった。この仕事はどうやっても頭の中には野球…の宿命なのか。

坂道を散策するのも気が乗らない天気だけど、市街地を去る前にやっぱり、平和公園だけは。もうこうなったら、こじつける。あの日を思い出す。

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1980年11月、神奈川県座間市出身。法大卒、2003年入社。
震災後の2012年に「自転車日本一周」企画に挑戦し、結局は東日本一周でゴール。ごく局地的ながら経済効果をもたらした。
2019年にアマ野球担当記者として大船渡・佐々木朗希投手を総移動距離2.5万キロにわたり密着。ご縁あってか2020年から千葉ロッテ担当に。2023年から埼玉西武担当。
日本の全ての景色を目にするのが夢。22年9月時点で全国市区町村到達率97.2%、ならびに同2度以上到達率48.2%で、たまに「るるぶ金子」と呼ばれたりも。