江川マリアがクリスマスイブに得たもの

フィギュアスケートの全日本選手権(12月21~24日、長野市ビッグハット)女子で、2年連続2度目の出場となる江川マリア(20=明大)が、11位となり、来季の強化選手入りを確実にしました。ショートプログラム(SP)では出遅れながらも、フリーでは独特の緊張感に打ち勝ち、好演。昨年の22位を大きく上回り、1年の集大成で成長の足跡を残しました。クリスマスイブにあった舞台裏の物語を「Ice Story(アイストーリー)」としてお届けします。

フィギュア

聖夜の始まり

長野市ビッグハット

長野市ビッグハット

2023年12月24日、日曜日。

その日の長野市は、白い雪のベールに包まれた前夜から打って変わったように、好天に恵まれた。

92回目を数える全日本選手権の会場となったビッグハット(長野市若里多目的スポーツアリーナ)周辺は、溶けた雪が小さな水たまりを作り出し、太陽からそそがれた、まばゆいばかりの光線をキラキラと照り返していた。

その光りが、星々の瞬きへと変わった、午後7時前。

聖夜の始まりを告げるように、聖歌「アヴェ・マリア」を名前の由来とする江川マリアが、銀盤に降り立った。

今年最後の演技となるフリー。

約1週間前の18日に誕生日を迎えたばかりの20歳がリンクの中央に立つと、ぐるりと取り囲んだ数千の観衆からは、大きな拍手が送られていた。

「去年は去年、今年は今年」

2日前、22日のSP。江川は「1本目のミスが最後まで響いてしまった」とジャンプのミスが重なり、13位発進となった。

全日本選手権女子SPの演技をする江川

全日本選手権女子SPの演技をする江川

地上波で生中継されるグループ3入りにはあと1つ順位が届かず。「本当に悔しいです」と唇をかんだ。

初出場の昨年は、これまでに感じたことのないような緊張感にさいなまれ、本来の演技を見せられず22位。「頭の中によぎった」と、同様にミスが出たSPから立て直せなかったフリーの苦い記憶がよみがえった。

それでも、今季のSPで、確かな成長の手応えがあった。真っ青な弾幕に囲まれた会場に立っても、「去年よりはちょっと冷静になれる部分があった」という。

「去年は去年、今年は今年。今年練習してきたことを信じることだけを考えて」

そう、強い気持ちで迎えたフリーだった。

挽回できたフリー

「O」

オリンピック(五輪)2大会連続出場の鈴木明子さんが、2012-13年シーズンに演じた壮大なプログラム。

表現の幅を広げるために挑戦した曲が、会場を包んだ静寂と緊張感を解きほぐしていく。

冒頭、SPで失敗した3回転ルッツを降りると、続けて3回転フリップ-2回転トーループも成功。得点源となるダブルアクセル(2回転半)-3回転トーループ-2回転トーループの3連続ジャンプもしっかりと決めてみせた。

しっとりした曲始めから、徐々に盛り上がりが増していく後半。伸びやかな滑りを見せ、次々とジャンプを着氷させていく。最終盤に組み込んだステップシークエンスやレイバックスピンでも、最高のレベル4をもらった。

待っていたクリスマスプレゼント

最後の音が鳴りやみ、再び会場にしじまが訪れた瞬間。江川は、跳び上がるように豪快なガッツポーズを作った。

そして、両手一杯で顔を覆い、込み上げるものを抑えた。

全日本選手権女子フリーの演技を終えガッツポーズする江川

全日本選手権女子フリーの演技を終えガッツポーズする江川

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スポーツ

勝部晃多Kota Katsube

Shimane

島根県松江市出身。小学生時代はレスリングで県大会連覇、ミニバスで全国大会出場も、中学以降は文化系のバンドマンに。
2021年入社。スポーツ部バトル担当で、新日本プロレスやRIZINなどを取材。
ツイッターは@kotakatsube。大好きな動物や温泉についても発信中。