【壷井達也〈中〉】17歳の全日本、残り30秒で痛んだ右足「全員の『えぇ』という声が」
日刊スポーツ・プレミアムでは毎週月曜に「氷現者」と題し、フィギュアスケートに関わる人物のルーツや思いに迫っています。
シリーズ第25弾では、壷井達也(21=シスメックス)を連載中です。難関国立大学の神戸大学に通う3年生は、今季の全日本選手権で自己ベストとなる合計252・34点の7位と躍動。26年ミラノ・コルティナダンペッツォ五輪へ歩みを進めています。
全3回の中編では、ダブルアクセル(2回転半)を初成功させた中学1年以降の日々をたどります。順風満帆に思えた競技人生でしたが、高校2年生シーズンには苦い記憶がありました。(敬称略)
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耳から離れない声…高校2年の全日本選手権
壷井達也には耳から離れない声がある。
2019年12月20日。東京・国立代々木競技場第一体育館。
17歳の誕生日から3日後。4度目の全日本選手権のショートプログラム(SP)での出来事だった。
シーズン前に痛めた右足首は限界に達していた。氷に立つだけでやっとだった。
「さすがに無理だな。もうやめよう」
本番直前。棄権を申し出た。
ゆっくりとリンクの中央へ向かう。観客へ頭を下げた。
その瞬間だった。
会場中から「えぇ」という声が響いた。その声は自分自身に向けられているようだった。
「ああいう声を聞いたのは初めてでした。僕も『あぁ』となりながら。どうしようもない思いで引き上げたことを覚えています。聞いている身としては、キツイものがありました」
順調に歩んできたはずのスケート人生が、崩れていくような気がした。
「高1の時は全日本ジュニアを優勝して、世界ジュニアにも行って。中3の時よりも成績が良かったんですけど、高2で初めて大きなケガをして。そこからなかなかうまくいかなくなりました」
無力感。痛む右足。目の前の光景。聞こえてきた音。
高校2年生で立った全日本の舞台は、苦い記憶として刷り込まれた。
切磋琢磨で3回転習得…希望に満ちた中1
その4年前。中学1年生のシーズンは、希望に満ちていた。
夏頃に3年がかりでダブルアクセルを成功させると、そこからは一気に技が上達した。
「ダブルアクセルを跳べてからは3カ月くらいで全てのトリプルジャンプを跳ぶことができました。それが一番驚かれることです」
2回転半の成功で得た感覚は、3回転ジャンプ習得のヒントとなった。
「自分の中ではダブルアクセルとトリプルジャンプは同じということに気が付きました。普通の2回転ジャンプは体が浮く感覚がなくても跳べるんですが、ダブルアクセルは体が空中に滞在する感覚がないと跳べない。トリプルアクセルも浮かないと跳べませんでした。この2つは似ているという感覚をつかめたことが、大きかったと思います」
異なる性質に思われる2つのジャンプが、自然と結びついた。地道に重ねてきた努力が、体内に新たな感覚を宿した。
その発見に加えて、邦和クラブの1学年後輩にあたる佐々木晴也の存在も大きかった。
「当時を知っている方からは『まさに切磋琢磨していく関係だったよね』と言われたことがあります」
そのシーズンはともにノービスAのカテゴリー。日頃から3回転ジャンプの習得を競い合っていた。
9月の中部ブロック直前に佐々木が3回転サルコーを習得すれば、その翌日には壷井も成功させた。10月の全日本ノービス選手権の前日にまたも佐々木が3回転トーループを跳べるようになると、今度は本番当日の公式練習で同じ技を決めてみせた。
「そのまま本番でも3回転トーループを入れていました」
その全日本ノービスは佐々木が90・61点で2位、壷井が88・68点で3位。優勝した佐藤駿とともに表彰台にも立った。
切磋琢磨が相乗効果を生み出した。
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岐阜県不破郡垂井町出身。2022年4月入社。同年夏の高校野球取材では西東京を担当。同年10月からスポーツ部(野球以外の担当)所属。
中学時代は軟式野球部で“ショート”を守ったが、高校では演劇部という異色の経歴。大学時代に結成したカーリングチームでは“セカンド”を務めるも、ドローショットに難がある。
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