【壷井達也〈上〉】初試合はルパン三世、跳べなかった2A “知的好奇心旺盛”の少年期
日刊スポーツ・プレミアムでは毎週月曜に「氷現者」と題し、フィギュアスケートに関わる人物のルーツや思いに迫っています。
シリーズ第25弾では、壷井達也(21=シスメックス)を描きます。難関国立大学の神戸大学に通う3年生は、今季の全日本選手権で自己ベストとなる合計252・34点の7位と躍動。2季連続でグランプリ(GP)シリーズにも出場し、26年ミラノ・コルティナダンペッツォ五輪へ歩みを進めています。
全3回の上編では、今季の全日本を振り返りつつ、愛知・岡崎市で生まれ育った幼少期を回想。好奇心旺盛だった小学生の頃から、ダブルアクセル(2回転半)を成功させるまでの日々を描きます。(敬称略)
フィギュア
壷井達也(つぼい・たつや)2002年(平14)12月17日、愛知・岡崎市出身。3歳から競技を始め、2012年から全日本ノービス選手権に4年連続出場。中学2年だった2016年全日本選手権で初出場ながら10位。2018年4月から愛知・中京大中京へ進学。同年の全日本ジュニア選手権優勝、全日本選手権7位。2021年4月から神戸大学国際人間科学部に進学。2022年世界ジュニア選手権3位。同年からシスメックスの所属となり、GPシリーズにも初出場。GPでの最高成績は同年フィンランド大会4位。身長165センチ。
実は骨折していた…昨年末全日本で得た新境地
青年は黒色の自転車にまたがっていた。
「写真、撮りますか?」
気温5度を下回る1月下旬。練習拠点の1つのひょうご西宮アイスアリーナ近辺で、壷井達也は優しい笑顔をたたえていた。
寒空の中、かじかむようにハンドルを握る右手にはテーピングが巻かれていた。実は1カ月前に手術をしたばかりだった。
昨年末の全日本選手権を終えてから、3日ほどがたった頃。手を曲げたり、伸ばしたりすると、痛みが走った。昨年10月のスケートアメリカで痛めた後、いったんはその傷も癒えたかのように思ったが、ずっと違和感が残っていた。
「これはおかしいぞ」
病院へ向かうと「舟状骨骨折」と診断された。「手術はシーズン終了後にできませんか?」と尋ねたが、医師からはすぐに施術を受けるように促された。
年末年始は右手を固定した。その間は左手で生活し、ギプスがとれるようになったのは1月中旬だった。
「まさか折れているとは思いませんでした」
苦笑しながら、今季の道のりを思い返す。症状にも気付かないほどの勢いで、前半シーズンを駆け抜けてきた。
全日本では7位。自己ベストとなる合計252・34点は、前回大会であれば3位相当の得点だった。高校1年時の全日本でも7位に入ったが、その時から37・47点も得点を上乗せした。
その成長をかみしめる一方で、冷静に現在地を見定めている。
「全員が持てるものを全て出し切った上での順位だったのかなと感じます。7位という順位は、今の日本での僕の立ち位置だと強く感じました。上位6人との壁も感じます。4回転ジャンプの本数はもちろん、点数には表れない集中力、本番で決めきる気迫。第3グループと最終グループの差を感じます」
優勝者から順に宇野昌磨、鍵山優真、山本草太、三浦佳生、佐藤駿、友野一希。“トップ6”ともくくられる6人とは、差があることも自覚している。
ただ、新たな感覚を会得した年の瀬でもあった。
「今回は演技中のことをあまり覚えていなくて。フリーが終わった瞬間も、自分の中では良い演技ができたとは思っていませんでした。お客さんが立ち上がるのを見て、『あ、良い演技だったのかな』と。気付いたら終わっていた感じでした。練習で繰り返してきた動きが染みついていて、自動化されていて。それがそのまま出せたのかなと思います。スケート人生で初めてでした」
声を弾ませながら語り明かした感覚は、ずっと目指していた境地でもあった。
昨年12月17日に21歳となった。ここにたどり着くまでには、紆余(うよ)曲折を経てきた。
競技人生を振り返ると、わずかに声を落とした。
「順調にいっていたと思います。途中までは」
初試合はルパン三世「映画も見てなかったけど…」
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岐阜県不破郡垂井町出身。2022年4月入社。同年夏の高校野球取材では西東京を担当。同年10月からスポーツ部(野球以外の担当)所属。
中学時代は軟式野球部で“ショート”を守ったが、高校では演劇部という異色の経歴。大学時代に結成したカーリングチームでは“セカンド”を務めるも、ドローショットに難がある。
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