佐藤駿が世界選手権で貫いた“確認作業”公式練習での4回転フリップが意味するもの

1本限りの4回転フリップが意味するものとは-。

フィギュアスケート男子の佐藤駿(21=エームサービス/明治大)は、初の世界選手権(米ボストン)で6位となりました。

ショートプログラム(SP)で5位につけると、フリーも6位と健闘。合計270・56点とし、26年ミラノ・コルティナ五輪の出場枠「3」の獲得に大きく貢献しました。

昨年末の全日本選手権では7位にとどまり、年明け以降の4つの競技会では合計250点を下回ることが3度ありましたが、日々の練習には変化がありました。

日下匡力コーチの証言や世界選手権の公式練習の様子を交えながら、初舞台で力を発揮するまでの歩みを描きます。(敬称略)

フィギュア

開幕前日の公式練習、終わりがけに跳んだ4F

世界選手権の公式練習

世界選手権の公式練習

2025年3月25日。会場のTDガーデンから徒歩5分ほどのプラクティスリンク。

男子SPを2日後に控える中、佐藤は公式練習に励んでいた。

残り時間が8分ほどになると、おもむろにジャージーを羽織り始めた。

3列シートの最前列でカメラのシャッターを切っていた私は、それがジャンプの確認を終えた合図だと受け取った。

もうジャンプは跳ばず、スピンやターンの練習に時間を割くのだろう-。

そう思ったのだが、見立ては外れた。

佐藤はリンクサイドで見守る日下と少しだけ言葉を交わすと、勢いよく滑り始めた。

ショートからロングサイドへ。スピンでも、ターンでもない。ジャンプの軌道へと入った。

跳んだのは、4回転フリップだった。

フリーの2本目で組み込む大技を危なげなく着氷させると、表情を変えないまま、再び日下のもとへ向かった。以降はスピンやターンの確認へと移っていった。

上着を着てから跳んだのは、その1本だけだった。

私はその姿を頭に刷り込みながら、大会前の日下の言葉を思い返していた。

世界選手権の公式練習で動画を見つめる佐藤駿(右)と日下匡力コーチ(撮影・藤塚大輔)

世界選手権の公式練習で動画を見つめる佐藤駿(右)と日下匡力コーチ(撮影・藤塚大輔)

佐藤と日下コーチにとっての「良い練習」とは

世界選手権男子SPへ佐藤駿(左)を送り出す日下匡力コーチ(撮影・藤塚大輔)

世界選手権男子SPへ佐藤駿(左)を送り出す日下匡力コーチ(撮影・藤塚大輔)

3月中旬。埼玉アイスアリーナ。

世界選手権の開幕を約2週間後に控える中、日下は今季の道のりを振り返っていた。

「出だしはすごく良かったです。今季はジャンプの構成を固めるのが早かったので、とても良いスタートが切れました」

佐藤はアクセルを除く全5種類の4回転ジャンプを跳ぶことができる。シーズン序盤にあらゆるジャンプを試しながら構成を固めていくのが、例年のスタイルだという。

過去には構成の決定に時間がかかるシーズンもあったが、今季は早々にルッツ、フリップ、トーループの3種を軸とすることが確定。その分だけ、練習にも余裕が生まれていた。

9月のロンバルディア杯では、自己ベストの合計285・88点をマーク。GPシリーズはスケートカナダで2位、中国杯で優勝と実力を発揮し、ファイナルでも合計270・82点で自己最高の3位と躍進した。

日下は順調にシーズンを進めていると好感触を得ていた。

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岐阜県不破郡垂井町出身。2022年4月入社。同年夏の高校野球取材では西東京を担当。同年10月からスポーツ部(野球以外の担当)所属。
中学時代は軟式野球部で“ショート”を守ったが、高校では演劇部という異色の経歴。大学時代に結成したカーリングチームでは“セカンド”を務めるも、ドローショットに難がある。