希代の輪界エンターテイナーが、1億円をゲットした。メンバー最年長43歳の佐藤慎太郎(福島)が円熟の差し足で、グランプリ(GP)初制覇を飾った。43歳1カ月23日での優勝は、山口幸二(現日刊スポーツ評論家)に次ぐ年長で、史上4人目の40代V。福島のベテランが大逆転で、令和初の賞金王に輝いた。2着は逃げた脇本雄太、3着は平原康多が入った。

熟練のハンドル投げが、最後にさく裂した。脇本と横一線でゴールに飛び込んだ。その後、バンクを半周してもアクションがない。すると、大観衆が「シンタロー!」と優勝を知らせてくれた。ビジョンで自分の姿を確認し、やっと右拳を天に突き上げた。「宮杯(高松宮記念杯)で1度、間違ってヘルメットを投げて失敗していたので」と打ち明けて笑わせた。「ダービー王とか夜王でもいい。何か王のつくものが欲しかった。賞金王は最高」。43歳にして初めてつかんだ、これ以上ない勲章だ。

03年の高知全日本選抜のG1初Vから16年の時がすぎた。GPも最長ブランクの13年ぶりだった。「当時のようなギラつきはなく、落ち着いて走れた。自分でもう駄目かと思ったことは1度もない。いつかGP、G1も取れると思っていた。応援してくれたファンに恩返しができたかな」。分厚い胸板をさらに誇らしげに張る。今年のG2以上で勝ち上がりを含め白星ゼロ。2着は実に13回。「いぶし銀じゃなく、ぴかぴかの銀になっちゃった」。最後にシルバーコレクターを返上した。

11年の東日本大震災で、練習拠点を福島から沖縄に移す決断もした。今では佐藤を慕うアマチュアが練習に参加し、影響を受けて選手を志す若者の手本になった。「やっぱり、諦めないことですよね。どんな状況でも。速い、若い、脚力だけでも勝てないのが競輪。それ以外のテクニックもあっての優勝」。競輪の楽しさを、トークとレースで表現してきた。

「全国20万人の慎太郎ファンのみなさま、ありがとうございました!」。感謝を告げて、さっそうと引き揚げてきた。令和最初の「競輪界の大みそか」は、佐藤慎太郎ショーで幕を閉じた。【山本幸史】

◆佐藤慎太郎(さとう・しんたろう)1976年(昭51)11月7日、福島県塙町生まれ。学法石川高から自転車競技を始め、競輪学校(現養成所)78期生として96年8月いわき平(151)でデビュー。03年11月高知全日本選抜でG1初優勝。04年高松共同通信社杯、05年ふるさとダービー武雄でG2優勝。通算成績は1823戦392勝。通算総獲得賞金は12億6224万3721円。165センチ、80キロ。血液型AB。