◆情けは人の為ならず

 今でも時折、考える。神山雄一郎が高橋光宏を味方に引き込めず、最終周回6番手になっていたら結果は違ったのだろうか。あの強さからみて「勝てた」と断言したくなるが、やはり5番手と6番手の差は大きい。高橋は間違いなく、勝利に貢献した。

 ほかでもない神山がそれを認めているのは、後のレースを見ると分かる。まくりを主武器としながらも、高橋が自分のラインに付いた時は、よく先行するようになった。そして、よく高橋に差し切られた。2人が連係するたび、車券作戦の重要なヒントになったから、随分もうけさせてもらったものだ。

◆変遷の光と影

 当時の競輪は3分戦が大半を占め、2分戦も珍しくなかった。近年は自力型の“寿命”が伸び、武田豊樹、村上義弘、小嶋敬二らのように、40歳を過ぎてもトップクラスで機動力を維持する選手が多い。必然的にラインは細かくなり、4分戦が当たり前のように展開されている。

 4分戦では推理が難しい。点数を絞って買いたい場合は、なおさらだ。難しいほど高配当が出やすいし、3連単を狙えば一獲千金の夢はさらに膨らむ。ただ、ビギナーや手堅く勝負したい人の需要も、忘れてほしくない。

◆誘惑する実力者

 1995年、高松宮杯・決勝の朝。必勝車券を導き出すため、新聞とのにらみ合いを続けていた。

 神山は、まず勝機を逃すまい。問題は2着。マーク戸辺英雄は準決に相当する「東王座戦」で、まくり1着の神山を追走して流れ込んだ。再現を期待する一方、先行しそうな三宅伸ラインの番手を回る小橋正義が、どうしても引っ掛かる。タテの鋭さ、ヨコの強さは天下一品だ。神山に行かれても、戸辺を止めることならできないか。もしくは直線で戸辺よりも伸びて、連対する可能性は十分ある。

 「2点で勝負するか…」。意を決しようとした時、誰かに呼び止められた。【藤代信也】