ブラジルらしいスーパーゴールに、眠気が吹き飛んだ。ブラジルのFWリシャルリソンが決めたこの日2点目。早くも「今大会ベストゴール」と言われるほど華麗で豪快なバイシクルシュートに、サッカー王国の神髄が詰まっていた。

リシャルリソンは左サイドを持ち上がったFWビニシウスからのパスを、ゴールに背を向けたままが左足で浮かせる。空中のボールを見定めると、体を倒しながら左に回転させ、右足を振り上げてジャンピングボレー。ボールは相手DFの肩口を抜け、そのままネットに突き刺さった。

「カポエイラ」のようなキックだった。足技を主としたブラジルの格闘技。蹴り技の1つである「パラフーゾ(飛び回し蹴り)」と同じ動きで、ブラジル国内でも「カポエイラゴール」としてアクロバチックな動きが話題になった。

「カポエイラ」は、労働力としてアフリカからやってきた黒人奴隷たちが生み出したとされる。手かせをされたまま闘うために足技が発達した。また、独特のリズムに乗って体を左右に揺らしながらステップを踏む「ジンガ」も発展していった。音楽とともに、同国に文化として根ざした。

19世紀に英国から伝えられたサッカーは、この「カポエイラ」と融合。W杯を3回制した王様ペレはオーバーヘッドなどアクロバチックなシュートが得意だったし、ブラジル選手が得意とするドリブルには「ジンガ」が生きている。予想外の動きが、ブラジルをサッカー王国にしたのだ。

ネイマールやロナウジーニョらは他国選手がまねできない独特なリズムでプレーする。相手守備を軽々と突破するトリッキーなドリブルには「カポエイラ」のDNAが詰まっている。

リシャルリソンは2点目を「練習でやったらうまくいった」と狙ったものだったことを明かした。普通ならばゴールに正対してパスを受け、シュートかパスかを選択するところ。セルビアのDFもそれに対応していた。普通なら考えられない動きは、予定通りのものだった。予想を裏切るプレーの連続。だからブラジルサッカーは相手にとって恐ろしく、見る者にとっては最高に美しく、楽しい。

ネイマールの負傷は心配だが、また新しいスター候補が出てきた。次から次へと選手が生まれ、世界中で唯一「世代交代がない」と言われるブラジルは、今大会も優勝候補。セルビアの「妖精(ストイコビッチ監督)」をぼうぜんとさせた「ハト(リシャルリソンの愛称)」は「まだ1試合、あと6試合(決勝戦まで)ある」と言ってのけた。まだまだ、ブラジルサッカーを楽しめそうだ。

ブラジル対セルビア 後半、2点目のゴールを決めるブラジル代表リシャルリソン(手前)(撮影・横山健太)
ブラジル対セルビア 後半、2点目のゴールを決めるブラジル代表リシャルリソン(手前)(撮影・横山健太)
ブラジル対セルビア 後半、2点目のゴールを決めるブラジル代表リシャルリソン(手前)(撮影・横山健太)
ブラジル対セルビア 後半、2点目のゴールを決めるブラジル代表リシャルリソン(手前)(撮影・横山健太)
ブラジル対セルビア 後半、先制ゴールを決めダンスを踊るブラジル代表リシャルリソン(手前)(撮影・横山健太)
ブラジル対セルビア 後半、先制ゴールを決めダンスを踊るブラジル代表リシャルリソン(手前)(撮影・横山健太)