小さくても頼りになる。

 リオ五輪出場を決めたU-23(23歳以下)日本代表で背番号10を着けるMF中島翔哉(21)のことだ。

 身長164センチ、体重64キロ。その体はスポーツ選手どころか、一般人に交じってもひときわ小さい。日本は26日の準決勝イラク戦で、後半ロスタイムにMF原川の劇的な決勝弾で6大会連続の五輪切符を手にした。その4日前(22日)にあった準々決勝イラン戦。手倉森ジャパンに勢いをつけたのは、紛れもなく164センチのMFだった。延長後半に2発の豪快なミドルを決めて、五輪に王手をかけたのだ。

 中島の活躍は、小柄な選手の希望になった。Jリーグの下部組織はもちろん、地域の“町クラブ”でも強豪になれば、小学生世代からセレクション(選抜テスト)がある。その受験用紙には子供だけでなく、両親の身長と体重や、スポーツ競技歴を書かせるクラブも少なくない。将来、どれほど大きくなるか-。子供の選考に、親のDNAまで関わってくる。それが、今のジュニア世代の現実だ。

 こんな話を聞いたことがある。ブラジル代表で不動の地位を築いたDFダビド・ルイス(28=パリサンジェルマン)は、サンパウロの育成にいた幼少時、なかなか背が伸びなかった。ブラジルでは当時から一流の選手を育てるには、ガッシリとした体が必要だという考えがあった。14歳の時にサンパウロから放出され、移ったビトーリアでようやく才能が開花。「プロにはなれない」と突き放された14歳の時とは見違えるほど身長も伸び、今では189センチある。

 デカい、強い、速い。世界に勝つ上で、それは理想論ではある。だが今の日本の育成は、体が小さいだけで小学、中学世代で芽をつんでしまっていることも多い。そういう意味では、中島が所属した東京Vのジュニアユース、同ユースは芽をつむことなく、しっかりと育ててきたのだろう。あのメッシ(バルセロナ)だって、170センチしかないのだ。小さい選手の可能性を、捨ててはいけない。

 決して体格に恵まれていない日本人だからこそできる育成も、あるのではないか。小さいけど頼りになる男の姿を見て、ふと思った。【益子浩一】


 ◆益子浩一(ましこ・こういち)1975年(昭50)4月18日、茨城県日立市生まれ。京産大から00年大阪本社入社。04年からサッカー担当。W杯は10年南アフリカ、14年ブラジル大会を取材。