ある日、突然、目の前から目標が消えたら-。社会人であれば、あるプロジェクトや売り上げ目標などがあったにもかかわらず、それが達成不可能だと通達される。受験生であれば、志望校入学のために頑張っていたのに、急に「実は入学の資格がありません」と言われてしまう。しかも、期日や入学願書提出の半年以上も前に。今後、努力しても、どうすることもできないという宣告ほど、酷なものはないだろう。絶望感や消失感に襲われ、自暴自棄になってもおかしくない。少なくともしばらくは、切り替えることなどできないのが普通だと思う。

 そんなシチュエーションに身を置くことになったのが、横浜F・マリノスのMF斎藤学(27)だ。9月23日のヴァンフォーレ甲府戦で、右膝前十字靱帯(じんたい)を損傷。全治8カ月の見込みと発表された。今季中の復帰どころか来季の開幕も絶望という重傷。そして、目標としていた来年のW杯代表メンバー入りも絶望的となった。本人のショックの大きさは計り知れない。だが、この診断結果が発表された翌日の9月27日には、松葉づえ姿で気丈に心境を語った。

 「もう前向きに考えているし、なるようになると思っているから」。開口一番、笑顔まで見せて話した。松葉づえも「なくても歩ける」と、目の前の報道陣、さらには報道陣の先にいるサポーターを安心させようとする気遣いまで見せた。故障は、試合中に当たり前ある接触プレーで着地した際、膝をひねって起きた。少しでも違うプレーを選択していたら、故障は起きなかったかもしれない。それでも「ケガする前の行動とか、あの時、このポジションに行っていたらとか考えていたらキリがない。そんなことを思っても仕方ない」と、冷静に振り返りながら話した。

 チームが優勝やACL出場権を得る3位以内を争う中、主将の自分が離脱することを申し訳なさそうにもしていた。一方で「自分がいないことで、力をつける選手も出てくると思う」と、チーム力が総合的に高まることに期待を寄せていた。無念の思いがあるか問うと「いやいや。しょうがないじゃないですか。無念というほどの無念じゃない」と、明るく返された。さらに「サッカーの練習以外での成長を意識してやっていけたらいいかなと思っている」とまで語った。終始、とてもマネできない言動ばかりだった。

 日本代表のハリルホジッチ監督は、斎藤が故障して以降「斎藤は、パフォーマンスが上がってきたと思っていたところで大きなケガをしてしまい残念だ」などと、何度も「斎藤」と名前を出している。最近は代表に呼ばれていなかったが、気にかけていたのだろう。

 今月13日には手術が行われた。今後は厳しいリハビリが待つ。取材の最後に「1カ月に1回ぐらいやりましょう。じゃあまた」と、手を挙げて引き揚げた。定期的に「順調に回復」や「驚異的な回復」などと報じることができれば、目標を見失いかけた人を、勇気づけることになるかもしれない。【高田文太】

 ◆高田文太(たかだ・ぶんた)1975年(昭50)10月22日、東京都生まれ。99年入社。写真部、東北総局、スポーツ部、広告事業部を経て、今年4月から12年ぶりにサッカーを担当。J1横浜、柏、J2湘南、千葉などを担当。